アルコール依存症の人は、頑なに依存症だと認めない
飲むべきか、飲まざるべきか、それが問題(1)
崎谷実穂=ライター/編集者
小田嶋:変なこだわりがでてきたりね。私は依存症だったころ、なぜかサントリーが嫌いだったんですよね。酒の会社のくせに、文化とか芸術に造詣が深いみたいな雰囲気を出しているのがしゃらくさい、と。今、考えると、完全に言いがかりで申し訳ないんですけど。
ただし、考え方や性格が全面的に変わるわけじゃないんですよ。そこが難しい。ちゃんとしているところは、ちゃんとしているんです。当時の私だって、それらしい原稿を書いていたわけですし。
飲んでいないときは、無気力でぱっとしない人間
葉石:完全に人が変わってしまうわけではないんですね。原稿は、酩酊状態で書いていたんですか?
小田嶋:酒は入っているけどまともな状態、というのがあるんですよ。当時は、酒が切れてひどく無気力で憂鬱な状態と、泥酔して使い物にならない状態の二極を、行ったり来たりしていました。その途中の段階は一応まともで、その間に原稿をやっつける。でもまともでいられる時間が、だんだん短くなってしまうんですよね。
ドラマなんかだと、アルコール依存症は酔っ払ってフラフラしているところばかり描かれますよね。でもむしろ、素面の状態のときにどれだけ使えない人間か、というのが問題だと思います。私は、お酒が2、3日切れているときは、話しかけても、「ああ……別に。うん、もう少し小さな声でしゃべってくれない……(小声)」みたいな反応しかしないやつになっていました。
葉石:今の小田嶋さんからは想像できません。そんなふうになってしまうんですね。
浅部:酒が切れて無気力な状態から、少し飲むと調子がよくなるというのが、まさにアルコール依存症ですよね。つまりアルコールが存在していることが、脳のノーマルな状態になってしまっている、ということなのです。
葉石:そうなると、治療が必要ですよね。
小田嶋:私は結局、アルコール依存症の症状である不眠が出て、まったく眠れなくなってしまったんですよ。それにともなって幻覚・幻聴が出たから、心療内科に行きました。アルコール依存症だと自覚して、病院にかかったわけではなかったんです。
でもその病院で「今は困った酔っぱらい程度だけど、40歳で酒乱、50歳で人格障害、60歳になったらアルコール性脳萎縮で死にますよ」とはっきり言われました。そこで、自分がアルコール依存症であることを認め、治療に向かわざるを得なかったんですよね。
