アルコール依存症の人は、頑なに依存症だと認めない
飲むべきか、飲まざるべきか、それが問題(1)
崎谷実穂=ライター/編集者
浅部:私の専門は肝臓病学で、肝臓を悪くして来る人の多くはアルコール依存症でした。彼らは「このまま飲み続けると死にますよ」と言っても、お酒を「やめます」とは言わない。「減らします」というんです。でも小田嶋さんの言う通り、むしろ減らすほうが難しいんですよね。
葉石:アルコール依存症の方は、自分が依存症だということを認めない、というお話を聞きました。「否認の病」である、と。
小田嶋:そうなんですよ。これって、性格が曲がっているから否認するとかそういうことじゃない(笑)。おそらく、アルコール依存症という病気のメカニズムのひとつなのだと思います。
私は30代になって自分の飲み方はやばいな、と思い始めたときがありました。例えば、飲みまくった次の日、知らない場所で目を覚ますことが増えるとか。起きたら身に覚えのないケガをしているとか。
葉石:うっ……、たまにありますね。
自分が依存症ではないという証拠を集めようとする
小田嶋:そういうことが続くと、自分の飲み方はやばいんじゃないかと思うわけです。でも、そこからさらに飲んでいると「俺は大丈夫だ、アル中じゃない」という自覚に変わるんですよね。不思議なことに。
(一同笑い)

小田嶋:ここまで来ると、症状が確定している状態ですよね。そして、どんどん自分がアルコール依存症ではない、という証拠を集め始めるんです。例えば「先週月曜日は飲まなかった」とか。火曜から日曜までは飲んでいるんですけど、「アル中だったら、毎日飲まずにいられないはずだ。1日飲んでいない俺は、アル中ではない」と考える。でもそれは、単に体調がわるくて飲めなかっただけなんですけど。
葉石:二日酔いがひどくて飲めない、ということですか?
小田嶋:いや、もう二日酔いどころじゃなくて、水も何も飲めない状態になるんです。何を口に入れても吐いてしまう。だから、点滴をうってもらうしかなくなるんです。私は1993年から95年くらいまでは、月に1~2回は点滴うちに病院に行っていましたね。でも、そんな状態でも「飲んでない日があるから大丈夫」って思うんです。
葉石:そこまでいっても、認めたくないんですね……。
小田嶋:もし、かつては「俺、飲みすぎてやばいよね」みたいに笑っていた人が、あるときから「俺はいつでも酒をやめられる」「全然飲みすぎてないから」なんて真面目な顔で言い出したら要注意ですよ。
葉石:それまでと、認識が変わってしまうのはこわいですね。
