小林麻央さんが患った「進行性の乳がん」とは何か
病理医が乳がん報道から見た、“深刻でも希望が見出せる状況”とは
榎木英介=近畿大学医学部附属病院臨床研究センター講師・病理医
2016年6月9日、歌舞伎俳優市川海老蔵さんの妻、フリーアナウンサーの小林麻央さん(33歳)が「進行性がん」で闘病中であることが一部メディアで報道された。
「進行性がん」とは何か? 容態は大丈夫なのか? 憶測が駆け巡ったが、同日会見した夫の海老蔵さんが、麻央さんが乳がんであることを公表した。

会見では、麻央さんは1年8カ月前の人間ドックで乳がんが見つかったこと、進行が早く「比較的深刻」な状態であること、抗がん剤による治療(化学療法)が基本であったこと、化学療法の効果を試しながら治療が行われたこと、最近は通院しながら治療を受けていること、体調は不安定で場合によっては再入院もあること、そろそろ手術を受けるかもしれないこと─などが明らかになった。
さまざまながんの診断にかかわる病理医として報道・会見を見ていると、麻央さんの乳がんの状態がなんとなく想像できた。しかし、普段医療になじみのない方々からみると、いったい何のことだか分からないだろう。
そこで、本稿では、一連の報道から何が読み取れるのか、これらの報道から私たちが何を学ぶべきか、解説してみたい。
「進行性がん」とは?

最初の報道で「進行性がん」という言葉が出てきた。いったい「進行性がん」とは何か、戸惑った人も多いだろう。なぜ「進行がん」とは言わないのか…。
私は「性」の字に、がんがかなり進行している可能性を読み取った。
がんの種類によっても基準が異なるが、「進行がん」は、「早期がん」と対比される言葉だ。早期がんには、例えば粘膜の上皮の中だけにとどまっている「上皮内がん」や、小さながん、消化器のように粘膜下層(*1)といった、表面から近い部位までにとどまっているがんが含まれる。
*1 消化器の壁は層をなしている。粘膜下層とは、飲食物が接する側の比較的浅いところにある層のこと。
そして、早期がんを超えて、ある程度広がってしまったのが「進行がん」となる。
しかし、「進行がん」には、発生した部位にとどまっている「局所がん」、発生部位の近くの臓器に広がるがん、そして、リンパ節や遠くの臓器に広がるがんがある。
報道であえて「進行性がん」と表記されたのは、少なくとも局所がんではなく、ある程度広がっていることを示しているのではないか…。
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