突然発生する急性大動脈解離、救命は時間との闘い
高血圧のある人は要注意
大西淳子=医学ジャーナリスト
解離が始まるとほとんどの人が、それまでに経験がないほどの激痛を感じます。解離部分が広がるにつれて、痛む範囲が、たとえば胸から背中へ、さらに腰へと移動することもあります。解離が止まれば痛みは消えますが、引き続いて、命に関わるような深刻な合併症が発生する危険性があります。痛みが強いことは広く知られていますが、症状を感じない患者も5%強存在するという報告があります。
解離部分の直径が拡大して瘤が形成された場合には、これを解離性大動脈瘤と呼びます。
大動脈解離がなぜ、どのようにして発生するのかについては、いまだ不明な点が少なくありません。
【大動脈解離の合併症】心臓の動きを急速に妨げることも
解離領域の大動脈の壁は、外膜だけで維持されています。そこに血圧がかかると、外膜が破れて出血することがあります。大動脈の分岐部分やその近辺に解離がおこると、分岐血管が狭くなったり詰まったりして、そこから先に血液が流れにくくなり、心筋梗塞や脳梗塞が発生します。解離が心臓との接続部分まで広がると、急性心不全になる可能性があります。
【大動脈解離の診断】主にCTスキャンが用いられる
診断には、大動脈全体を評価でき、緊急時に短時間で検査可能なCTスキャンが主に用いられます。
【大動脈解離の治療】上行大動脈に発生した場合は緊急手術
大動脈解離が発生した位置によって、命に関わるのかどうか、すぐに手術が必要か否かは異なります。また、発症後2週間の急性期(発症後の48時間を超急性期と呼ぶこともあります)と、それ以降の慢性期では、治療の選択肢が異なります。
スタンフォードA型 | スタンフォードB型 | |
解離が発生する範囲 | 上行大動脈を含む | 下行大動脈以下 |
---|---|---|
発症割合* | 62.3% | 37.7% |
病院到着前の死亡に占める割合** (解離型不明が26%) | 67% | 7% |
院内死亡(入院患者の死亡率)* | 34.9% | 14.9% |
入院患者の発症から1カ月以内の死亡率(手術なしの場合)* | 24時間以内;20% 48時間以内;30% 1週間以内;40% 1カ月以内;50% | 1カ月以内;10%以下 |
急性期(発症から2週間)の治療 | 原則としてただちに手術(人工血管に置換など) | 合併症がなければ、内科的な治療(強力な血圧管理、安静など) |
慢性期の治療 | 症状が安定していれば内科的治療 | |
再発予防 | ・血圧の厳格な管理 ・激しい運動、相手とぶつかり合うようなスポーツ、重いものを持つといった行為を避ける ・定期的にCT検査を受けて大動脈の直径を計測 |
** 村井達哉. 大動脈解離と突然死-東京都監察医務院における1,320剖検例の統計的研究-.日法医誌. 1988;42:564–577.
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