遺伝性の「乳がん」「卵巣がん」、リスクを正しく認識 男性も無縁ではない
伊藤和弘=ライター
「がん家系」という言葉があるが、実際にがんの罹患には遺伝的要因も深くかかわっている。中でも乳がん・卵巣がんはある遺伝子の変異でリスクが大幅に高くなることが知られており、この遺伝子の変異が見つかった米国の人気女優が予防目的で健康な乳房を切除したことも話題になった。今回は、2022年4月27日に行われた第31回日本医学会総会博覧会 第1回オンライン市民公開講座「最新のがんゲノム医療を知ろう!」より、聖路加国際病院副院長・ブレストセンター長の山内英子氏による講演「がんって遺伝するの?」の内容をお届けしよう。

医療の進歩によって「不治の病」ではなくなったものの、がんが長いこと日本人の死因第1位の座を守り続ける「最も怖い病気」の1つであることに変わりはない。年間で約100万人もの人ががんと診断され、日本人の2人に1人はがんに罹患する。
がんは遺伝子の変異によって起こり、これには後天的な体細胞変異と先天的な生殖細胞系列変異がある。加齢・喫煙・飲酒・紫外線などの環境要因に加え、親から受け継いだ遺伝要因も影響する。
「『うちはがん家系では…』『私はがん体質かも』と心配されている方もいらっしゃると思います。しかし、がん家系とは何でしょうか? 昔は分からないことが多くありましたが、今は医療が進み、遺伝的体質、つまり親から引き継ぎやすい体質を持っている方の中にもいろいろなタイプがあることが分かってきました」と聖路加国際病院副院長・ブレストセンター長・乳腺外科部長の山内英子氏は話す。
「私は主に乳がんの患者さんを診ていますが、乳がんは昔から、家族の中で乳がんの方がいるとほかの人も乳がんになりやすいことが知られていました。実際、がん患者さんの中には、家系の中に乳がんや卵巣がんを発症された方が複数いることがあります。このことを乳がん・卵巣がんの家族歴、家族集積性が見られるといいます。こういった家族歴の見られる乳がん患者の中には、発症に遺伝要因が関与していることがあります」(山内氏)
BRCA遺伝子に変異がある人は、乳がんリスクが極めて高い
「遺伝性の乳がんに関係する遺伝子はまだ分かっていないものもありますが、現在確認されているのがBRCA1とBRCA2という遺伝子です。この遺伝子は誰もが持っている遺伝子ですが、これらに生まれつき変異(塩基の並び変化)があり、本来の機能が失われると、明らかに乳がんや卵巣がんになりやすいことが分かっています」と山内氏は説明する。
これらの遺伝子のどちらかに病的変異がある場合に「遺伝性乳がん・卵巣がん症候群」(Hereditary Breast and Ovarian Cancer=HBOC)と呼ぶ。
がんの中でも女性で最も患者数が多いのが乳がんだ。国立がん研究センターによると、2018年に乳がんと診断されたのは女性9万3858人、男性661人となっている。そのうち、3~5%が遺伝性乳がん・卵巣がん症候群とされる。
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