新型コロナ入院患者の死亡リスク低下に、一部の降圧薬とスタチンが関係
血圧を下げるACE阻害薬、コレステロールを下げるスタチン
大西淳子=医学ジャーナリスト
この記事は、2020年5月1日付のNew England Journal of Medicine(NEJM)誌電子版に掲載された論文を基に作成しましたが、当該論文の著者である米ハーバード大学のMandeep R. Mehra氏らが、2020年6月4日付で、同誌に論文の取り下げを要請しました。
著者らによると、この論文は、国際的な医療データベースに登録されている患者情報を入手し、分析した結果を発表したものですが、先頃、NEJM誌の編集部からそのデータベースの質に懸念があるとの指摘がありました。そこで、対象となった個々の患者の未加工のデータを確認しようとしたところ、それが不可能であったため、この論文を撤回することを決めたと述べ、謝罪しています。取り下げについての声明はこちら。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を発症した場合に、重症化するリスクが高いのは、高齢者や、高血圧、糖尿病、COPD(慢性閉塞性肺疾患)などの慢性疾患を持つ患者であることが示されています。では、COVID-19で入院した患者が、無事に退院できるか、そのまま死亡してしまうか、その転帰の違いに関係する要因は何なのでしょうか。
米ハーバード大学などの研究者たちは、約9000人のCOVID-19入院患者を、生きて退院した人(生存退院)と院内で死亡した人(院内死亡)に分けて、個々の患者の特性が死亡リスクに及ぼす影響を検討しました。その結果、狭心症や心不全などの心疾患を持病として持っている場合は院内死亡リスクが高いこと、一方で、持病の治療として、血圧を下げるアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、または、コレステロールを下げるスタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)を使用している人は、院内死亡リスクが低いことが明らかになりました(具体的な薬剤名は表2参照)。

約9000人の入院患者の死亡リスクに影響を与えたものは?
研究の対象となったのは、アジアと欧米、計11カ国169病院に、2019年12月20日から2020年3月15日までにCOVID-19で入院した8910人の患者です。
8910人が入院した地域の内訳は、北米が1536人(17.2%)、欧州が5755人(64.6%)、アジアが1619人(18.2%)でした。平均年齢は49歳で、65歳超の高齢者が16.5%を占めており、40%が女性で、63.5%が白人、7.9%が黒人、6.3%がヒスパニック、19.3%が東洋人でした。
入院前から慢性疾患を抱えていた患者が多く、脂質異常症が30.5%、高血圧が26.3%、糖尿病が14.3%の患者に認められました。過去に喫煙者だった人の割合は16.8%、現在も喫煙している人の割合は5.5%でした。心血管疾患の診断を受けていた患者は、冠動脈疾患(狭心症や心筋梗塞)が11.3%、うっ血性心不全が2.1%、不整脈が3.4%でした。
