新型コロナ入院患者の死亡リスク低下に、一部の降圧薬とスタチンが関係
血圧を下げるACE阻害薬、コレステロールを下げるスタチン
大西淳子=医学ジャーナリスト
院内死亡の危険因子は高齢、心疾患やCOPD
3月28日までに、515人(5.8%)が院内で死亡していました。入院期間中に一度でもICU(集中治療室)に入った患者では24.7%が死亡していましたが、ICUに入らなかった患者の死亡率は4%でした。
生存退院した患者に比べ、院内死亡した患者は、年齢が高く、男性が多く、糖尿病、脂質異常症、冠動脈疾患、心不全、不整脈、COPDの患者の割合と、喫煙者の割合が高くなっていました。
院内死亡の独立した危険因子であることが明らかになったのは、65歳超、冠動脈疾患、心不全、不整脈、COPD、喫煙でした(表1)。COPDの患者の院内死亡リスクは、COPDがない患者の約3倍で、冠動脈疾患がある患者では、冠動脈疾患がない患者の約2.7倍になっていました。一方で、性別が女性であることは、院内死亡リスクの低下と関係していました(女性の院内死亡リスクは男性の約0.8倍)。
予測因子 | リスクの変化 |
年齢が65歳超 | 93%↑ |
性別が女性 | 21%↓ |
冠動脈疾患 | 170%↑ |
うっ血性心不全 | 148%↑ |
不整脈 | 95%↑ |
慢性閉塞性肺疾患(COPD) | 196%↑ |
喫煙者 | 79%↑ |
アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬を使用 | 67%↓ |
アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)を使用 | 有意差なし |
スタチンを使用 | 65%↓ |
ACE阻害薬とスタチンの服用患者は死亡リスクが低かった
入院時に服用していた処方薬(抗血小板薬、インスリンその他の糖尿病治療薬、β遮断薬、スタチン、アンジオテンシン受容体拮抗薬〔ARB〕、ACE阻害薬)と院内死亡の関係を検討したところ、ACE阻害薬とスタチンの使用が死亡リスクの低下と関係していました(ACE阻害薬とスタチンの主な薬剤名は表2参照)。これら以外の薬剤の使用と院内死亡との間に有意な関係は見られませんでした。
続いて、もともと高血圧のあった患者に限定して、ACE阻害薬の服用と、院内死亡リスク低下の関係を調べたところ、ACE阻害薬を服用していた高血圧患者の院内死亡リスクは、非服用者に比べ73%低くなっていました。同様に、脂質異常症患者に限定してスタチンの院内死亡への影響を調べたところ、スタチン服用者の院内死亡リスクは、非服用者に比べ49%低くなっていました。
先に、降圧薬であるACE阻害薬とARBが、新型コロナウイルスの感染リスクを上昇させるのではないか、またはCOVID-19の経過や結果に有害な影響を及ぼす可能性があるのではないかとする報告がありましたが(*1)、今回の研究では、ACE阻害薬とARBは、院内死亡のリスク上昇には関係しないこと、ACE阻害薬は逆にリスク低下に関係することが示されました。心血管疾患などのある患者は院内死亡リスクが高くなっていましたが、同時に、心血管疾患を引き起こす、高血圧や脂質異常症と診断されている患者が、処方されるACE阻害薬やスタチンをきちんと服用しておくことの重要性も示唆されました。
アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬 | |
一般名 | 商品名 |
エナラプリル | レニベース ほか |
イミダプリル | タナトリル ほか |
カプトプリル | カプトリル ほか |
ペリンドプリルエルブミン | コバシル ほか |
テモカプリル | エースコール ほか |
アラセプリル | セタプリル ほか |
リシノプリル | ゼストリル、ロンゲス ほか |
シラザプリル | インヒベース ほか |
デラプリル | アデカット |
キナプリル | コナン |
トランドラプリル | オドリック ほか |
ベナゼプリル | チバセン ほか |
HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン) | |
一般名 | 商品名 |
ロスバスタチン | クレストール ほか |
アトルバスタチン | リピトール ほか |
ピタバスタチン | リバロ ほか |
プラバスタチン | メバロチン ほか |
シンバスタチン | リポバス ほか |
フルバスタチン | ローコール ほか |
論文は、2020年5月1日付のNew England Journal of Medicine誌電子版に掲載されています(*2)。
*2 Mehra MR, et al. N Engl J Med. 2020 May 1;NEJMoa2007621.
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