日経グッデイ

トピックス

歩くことは生きること! 50歳を過ぎたら「足のメンテナンス」を

下北沢病院に日本初の「足病総合センター」、ウオノメから“足の心筋梗塞”にまで対応

 内山郁子=日経Gooday

下北沢病院(東京都世田谷区)に「足病総合センター」が開設されたのは2016年7月のこと。日本で初めての「足の総合病院」として、皮膚科、形成外科、整形外科、リハビリテーション科など、様々な専門領域の医師らが集結して診療に当たっている。センターの開設に尽力した、同病院の理事長で皮膚科医の久道勝也氏と、院長で形成外科医の菊池守氏に、足の総合病院が誕生した経緯や、どんな病気を診てもらえるか、「足医者」をどう活用すればいいかを聞いた。

米国の「足医者」を日本に導入

下北沢病院に「足病総合センター」を設置したのは久道理事長の立案によるそうですが、足の専門病院を作ろうと思ったのはなぜですか。

久道勝也(理事長) あまり知られていませんが、米国には、足を専門に診る「足病医」(ポダイアトリスト)という医師がいます。日本でも、心身を診る「医師」と、歯を診る「歯科医師」が、独立した存在として診療を行っていますよね。加えて、米国では足病医が、足を診ることに特化した医師として働いています。

 米国では、足病医が「町の足医者さん」としてクリニックを開いているほか、病院に勤務して他の医師と共同で足の病気を診療しています。創傷センターでは足病医を中心に、皮膚科、形成外科、整形外科、リハビリテーション科など、複数の領域の医師が集結して診療に当たることもあります。

下北沢病院の「足病総合センター」開設に尽力した、同病院の理事長で皮膚科医の久道勝也氏

 僕が足病医の存在を知ったのは十数年前、米国のジョンズ・ホプキンス大学で老人内科の大権威である医師の助手についたときでした。その医師は自分の外来に来た患者さんを診察する際に、必ずといっていいほど足病医に診察を依頼するのです。足病医は靴下を脱がせて足を見て、足がどうなっているか、変な傷はできていないか、おかしなところにタコができていないか、爪が食い込んでいないかなどをチェックし、治療すると同時に老人患者の歩行状態の確認をします。

 なぜ、足病医に診察を依頼するのかというと、老人内科の医師には分かっているのです。「歩行ができなくなると、いきなり生活の質(QOL)全体が崩れてしまう」ということを。

 例えば、糖尿病で足が壊疽(えそ:腐ること)を起こし、切断を余儀なくされる場合があります。足の切断によって歩けなくなってしまう。すると、5年後には3割の人しか生き残っていません。まさに「歩くことは生きること」なんですね。また、高齢になって足が弱ってくると、筋肉の量が減って体の機能が衰える「サルコペニア」、さらには心身が弱って様々な病気や要介護状態になりやすくなる「フレイル」という問題が出てきます。

 日本は、これから高齢化がますます進みますし、足のトラブルを抱えやすい糖尿病の患者数も増えています。「足の専門病院」に対するニーズが高まっているんです。そこで、米国の足の専門病院で行われている診療体制を、そのまま日本に“輸入”しようと考え、形成外科や血管外科など様々な診療科の「足を診るスペシャリスト」に声をかけて、「足病総合センター」を立ち上げたのです。

一口に「足の病気」といっても様々なものがあります。どんな病気の患者さんを診ることが多いのでしょうか。

菊池守(院長) 足のウオノメやタコ、爪の変形といった比較的軽いものから、外反母趾、足の捻挫、骨折、さらには壊疽など、本当に幅広い疾患を診療しています。近隣の病院からよく紹介されるのは、「下肢救済(かしきゅうさい)」が必要な患者さんです。

 下肢救済とは、文字通り「下肢を救う」という意味です。放っておくと切断しなければならなくなるような病気になった足を手術して、切らなくても済むようにするのです。下肢救済が必要となる代表的な病気に、「足の心筋梗塞」とも呼ばれるASO(閉塞性動脈硬化症)があります。

足を救い、歩けるようにして、再発も防ぐ

「足の心筋梗塞」ですか! とても怖い病気のように聞こえるのですが、具体的にはどんな病気なのですか。

菊池 心筋梗塞は、心臓の血管が突然、塞がれてしまうことで起こりますよね。ASOも同様に、足の血管が詰まることで発症します。足の動脈にコレステロールなどが付着して、次第に細くなり、血行が途絶えてしまう。その状態を放っておくと足が腐ってしまいます。

形成外科医で「下肢救済」のスペシャリストでもある、下北沢病院院長の菊池守氏

 自覚症状としては、足の血行の悪化による症状、つまり「足が冷たいな」とか、歩いたときに筋肉が酸欠を起こして「痛いな」と感じます。特にふくらはぎに痛みやだるさ、こむら返りなどが出ることが多い。この段階で受診してもらえれば、「血行再建術」という血管を広げる手術をして、足を切断から救うことができます。

 ただ、残念ながら、足を救えた人が全員、歩けるようになるとは限りません。

 特にお年寄りの場合は、ASOで足に痛みが出るために歩かないでいたり、血行再建術を受けるために入院して寝たままになっていた結果、筋力が落ちてしまって、「足は助かったけれど歩けない」状態になることがあります。いわゆる「廃用症候群」という状態の一つです。すると、歩けるようにするためには手術だけではだめで、リハビリテーションが術後に必要になってくるのです。

 また、ASOのような足の血管病を起こすような人では、糖尿病高血圧など、動脈硬化を進行させるような病気を合併していることが非常によくあります。血行再建術で血管を広げても、糖尿病など原因となる病気を放っておいては、再び血管が詰まってしまう。再発予防のための治療や患者さんの教育も欠かせないわけです。

 当院の足病総合センターには、血行再建を行う血管外科、形成外科のほかに皮膚科、整形外科、リハビリテーション科など、足を救うだけでなく救った足を使えるようにする、歩けるようにするためのスタッフが集結しています。さらに「糖尿病センター」も併設しているため、糖尿病を合併している患者さんには、再発予防に向けた診療もできる。こうした下肢救済のための診療体制が整っている点が、当院の大きな特長だと思います。

足病総合センターと糖尿病センターという「2センター制」が、足の病気を総合的に診療し、治療して、再発を防ぐためには欠かせないのですね。

久道 そうです。足のトラブルの原因疾患として最も多いのが糖尿病ですから。糖尿病の専門医で、かつ糖尿病患者さんの足のケアに積極的に関わってきた富田益臣医師をセンター長に招いて、2016年5月に糖尿病センターを立ち上げています。

菊池 糖尿病の患者さんに足のトラブルが特に多いのは、足に傷ができても自分では気づかないことが多く、悪化させてしまいがちだからです。糖尿病による神経障害があると痛みを感じにくいですし、網膜症があると視力も低下して傷が見えにくいですから。そのため、足に傷ができていないかを日ごろから丁寧にチェックして、傷の原因になりやすい巻き爪やウオノメなどの手当ても早め早めに行う「フットケア」の指導がとても大事になります。

 最近は、糖尿病患者向けにフットケアの専門外来を設置して、患者指導などに力を入れる医療機関が増えてきています。我々はそこからさらに一歩踏み込んで、単に患者指導を行うだけでなく、実際に足の傷ができた場合の治療や、傷を作りにくくするための予防として靴の調整までも行っています。

足の耐用年数は50年、定期的なメンテナンスを

靴の調整まで行ってもらえるのは魅力的ですね。でも、ごく軽い足の病気で受診するのは気が引けてしまいそうです。糖尿病や、「下肢救済」が必要になるような重い足の病気はないけれど、足がなんとなく痛いといった「ちょっとした異常」でも受診してよいでしょうか。

菊池 もちろんです。当センターを初めて受診する患者さんの3分の1は、「足がしびれたり、痛みがある。でも、これまで受診した医療機関では原因が分からないと言われた」という人たちです。

長い人生、いつまでも自分の足で歩いてQOLを高く保てるよう、定期的なチェックとケアを。(c)halfpoint-123rf

 足に痛みやしびれがあって、病院を受診しても、レントゲンに骨折などの病変が映らなければ「何ともありません」と言われてしまいがちです。ですが、仮に骨の問題がなかったとしても、痛みなどの症状が出ているということは、運動器(骨や関節、筋肉、神経などの、体の動きを担う組織・器官)としての問題はあるわけです。

 そういう患者さんに対して、痛みやしびれがいつから、どんなタイミングで出るのかを詳しく問診したり、足の形に異常がないかを見たり触れたりして、痛みやしびれの原因がどこにあるかを調べます。画像診断も、レントゲンだけではなくエコー(超音波診断装置)なども使って、筋肉など骨以外の組織についても詳しく検査します。すると、例えば扁平足など足の構造上の問題とか、腱や関節に炎症が起こっているなど、症状の原因が見つかってくるのです。そこを治療することで、症状を和らげ、悪化を防ぐことができます。

 よく、「歯のかみ合わせが1mmずれたら背骨が曲がる」といわれますが、足も同じです。足に痛みがあると、それをかばうために膝が痛くなって、股関節が痛くなって腰が悪くなる、といった具合に、体全体に影響が表れます。足にも「耐用年数」がありますから。

足に耐用年数があるなんて、初めて聞きました。言われてみれば、なるほどと感じます。

菊池 長年、体重がかかり続けることで関節がすり減って変化し、痛みなどが起こるようになる「変形性関節症」は、膝の関節だけでなく股関節などほかの部位の関節にも起こります。足首の関節は膝よりも小さいので、トラブルも生じやすいです。

 人間の足の耐用年数はだいたい50年くらいで、それを超えてくると誰しもどこかしらに痛みや異常は出てきます。長い人生ですから、いつまでも自分の足で歩いてQOLを高く保てるよう、定期的なチェックとケアを行うことをお勧めしたいですね。

久道 当院は紹介状がなくても受診していただけますが、予約制ですので、まずは電話して予約を取っていただければと思います。時々痛むとか、しびれる、冷えるといった“軽い症状”であっても、隠れている病気は案外あるものです。「足の指先が冷えて、しもやけが治らない」と言って受診した人に、先ほどお話しした「足の心筋梗塞」が見つかったこともあります。逆に、診察を受けてみて重い病気が見つからなかったとなれば、安心して帰れるわけですから。気になる症状がある場合、まずは受診して、足を診てもらうようにしてくださいね。

医療法人社団青泉会 下北沢病院(東京都世田谷区)
住所:東京都世田谷区北沢2-8-16
(小田急線、京王井の頭線「下北沢」駅下車徒歩5分)
診療科目:整形外科、形成外科、末梢血管外科、糖尿病内科、循環器内科、内科、皮膚科、リハビリテーション科
診療部門:足病総合センター、糖尿病センター
診療時間:月~土 9:00~12:00、14:00~17:00
休診日:日曜・祝日、年末年始(12月30日~1月3日)
受診予約:03-3460-0021(予約受付時間:9:00~11:30、13:30~16:30)
ウェブサイト:http://shimokitazawa-hp.or.jp/