埼玉県立大学は、健康長寿社会をめざした予防政策の科学的な基盤づくりを目的とする日本老年学的評価研究(JAGES)プロジェクトらと共同で、地域環境が口の健康状態に与える影響について調査分析を実施した。その結果によると、「無歯顎(むしがく)」(残っている歯が0本)は個人特性だけでなく地域特性とも関係があり、地域の平均所得が増加すると無歯顎のリスクは減少する。
調査では、JAGESプロジェクトが65歳以上の高齢者7万9563人から歯の本数や所得に関する情報を収集し、埼玉県立大学などが無歯顎の有無と個人および地域所得との関連を同時に検討するマルチレベル分析という統計手法を用いて検証した。
その結果、性別や年齢、婚姻状態、教育歴、地域の歯科医院密度を考慮した上でも、個人所得と地域所得のどちらも高いほど、無歯顎になるリスクが減少する傾向が見られた。また、個人の平均所得が100万円高くなると、無歯顎になるリスクは約1割減少するのに対し、地域の平均所得が100万円高くなるほど、無歯顎になるリスクは約6割減ることが分かった。
所得と無歯顎の割合との関係について男女差を見たところ、個人所得が増えることで無歯額が減る程度は男女間で大きな差はないが、地域所得が増えることで無歯額が減る程度は女性の方が男性より著しく、女性は男性と比べ地域所得の影響をより強く受けていることが明らかとなった(図1)。
同調査は、所得の低い人々は高い人々に比べ口腔の健康が悪いというような個人の特性との関連と同時に、地域環境からの影響も受けている可能性が指摘されていることを背景に実施した。
無歯顎を防ぐためには、地域経済水準の向上を含め社会環境的な要因の改善を図り、健康な地域づくりを進める必要があることを示唆した調査結果だと、埼玉県立大学は述べている。