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ストレス性のうつ、不眠、頭痛は「漢方」で重症化予防を

症状別の向く薬は?

 伊藤左知子=医療ジャーナリスト

 仕事上のストレスはビジネスパーソンにとって永遠の課題。仕事の量ややりがい、対人関係、経済的不安など、原因も様々だ。過度のストレスがかかると、うつ病などの精神疾患の原因になる。また、ストレスは精神疾患だけでなく、胃痛や食欲不振などさまざまな心身症も引き起こす。このように原因も症状も多岐にわたるストレス性の疾患には、西洋薬だけでなく、漢方薬が適していると、筑波大学大学院人間総合科学研究科教授の水上勝義さんは話す。水上さんのKampo Academiaプレスセミナーでの話をもとに、ストレスが身体に与える影響と、ストレス対策に漢方薬が向く理由を解説する。

ストレスが原因で体調不良になったら、漢方の専門医に相談してみるのも一策(©olegdudko -123rf)

避けられない職場のストレス

 「上司とうまくいかない」「仕事で成果を上げられない」「給料が安く将来が心配」など、職場でのストレスは数知れない。それに加えて、「相続のことで親戚ともめている」「恋人にふられた」など私生活にストレスが生じることも少なくなく、現代人は多くのストレスを抱えて生きている

 「近年、うつ病をはじめとしたストレス関連の精神疾患が増えています」と水上さんは話す。厚生労働省が発表した障害保健福祉関係会議資料「精神保健医療福祉について」(2011年9月27日)によれば、精神疾患で外来を受診する患者は年々増加。特にストレスが関与するストレス関連障害や気分(感情)障害で受診する外来患者は大幅に増えている。

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 これを受けて、厚生労働省は2011年に精神疾患をがん、脳卒中、心臓病、糖尿病の「4大疾病」と並ぶ「5大疾病」と位置付け、予防の観点から対策を強化した。その1つが労働安全衛生法の改正(2014年6月)だ。労働者のメンタルヘルスの不調を未然に防ぐため、2015年12月からストレスチェックを職場に義務付けた。これは、ストレス度が高かった人は希望すれば医師や保健師による面談を受けられる、というものだ。こういった施策が必要といわれるほど、ストレス関連の精神疾患を抱えている人は増えているわけだ。

ストレスがかかると脳はどのような反応をするのか?

 ストレスがかかると、脳は主に2つの経路でストレスに対応する。

 1つは視床下部・下垂体・副腎系の経路。これは副腎皮質ホルモン(コルチゾール)というストレスホルモンを分泌する経路だ。コルチゾールはエネルギーをつくったり、集中力を高めたりなど良い働きをするが、このホルモンが出続けると炎症反応が起こり、免疫が抑制され風邪を引きやすくなったり、けがや病気が治りにくくなったりする。また、分泌が長期にわたると、脳の海馬と呼ばれる部分が障害を受け、高齢者の場合は認知機能の低下にもつながるという。うつ病になるのもこの経路が原因だ。

 もう1つの経路は、自律神経系の経路で、ストレスが自律神経系の橋・延髄に影響すると、交感神経が優位となり、副腎からアドレナリンが分泌されて、血圧上昇、心拍数増加などが起こる。

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ストレスによる障害はうつ病だけではない

 ストレスがかかり続けて、視床下部・下垂体・副腎系や自律神経系の亢進(こうしん)が続くと、うつ病や不安障害などの精神疾患から、胃痛や食欲不振などの心身症まで、様々な障害が起きてくる。

ストレスと関連する主な精神・身体疾患

  • うつ病 
  • 不安障害(パニック障害、不安障害、PTSDなど)
  • 適応障害
  • 依存症(アルコール、薬物)
  • 心身症
  • 身体表現性障害

ストレス関連疾患に漢方治療が良い理由

 では、ストレスから様々な疾患が起きた場合、どうすればいいのだろうか。

 ストレスが続くと一番心配なのがうつ病だ。水上さんは、「漢方薬は自殺願望がある場合や、職場に行くこともできないくらい重度のうつ病には適していませんが、そうなる前の重症化予防と症状の改善に適しています」と話す。

 慢性的なストレスがかかると、副腎皮質から分泌されるストレスホルモンに体が対応しきれなくなり、ストレスホルモンに対抗して分泌されるはずの、不安やイライラをコントロールする「セロトニン」や、喜びや生きがいを感じさせる「ドーパミン」といった神経伝達物質が減少して、うつ病になる。

 西洋薬は慢性的なストレスの影響で減少したドーパミンやセロトニンに直接働きかけて、これらを増やすことにより症状を改善させる薬である。一方、漢方薬はストレスホルモンの働きを緩和させるなど、ストレスに負けない体質をつくることで、ドーパミンやセロトニンが減らないようにする薬だ。

 効き方にどのような違いがあるかというと、西洋薬はうつ病をピンポイントに改善させるのが特徴だが、漢方では体質や症状により様々な生薬を組み合わせた薬を使うため、うつ病だけでなくストレスホルモンによって起こる他の不調にも効くといった特徴がある。

 「例えば柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)という漢方薬は、うつ症状の改善だけでなく、ストレスホルモンが要因となる高血圧や不眠の改善も期待できます」と水上さん。

 では、具体的にどんな症状にどんな漢方薬が向くのだろうか。

 ストレス性疾患といっても症状はいろいろある。すでに説明した通り、漢方薬は症状や体質によって使われる薬が異なる。最後に症状別の向く薬(一部)を表にまとめたので参考にしてほしい。

「気鬱」気持ちがうつうつする。頭が重い。のどが詰まった感じがする。息苦しい、おなかが張るなどの症状が出る。「気虚」無気力感、疲労感がある。だるい、食欲不振などの症状が出る。「気逆」下から突き上げてくるイライラ感が強い。他にのぼせ、動悸(どうき)、発汗、不安感などの症状が出る
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 ストレスが原因で体調不良になったら、早いうちなら、漢方治療の専門医がいる医療機関で相談してみるのも一策だ。

水上勝義(みずかみ かつよし)さん
水上勝義(みずかみ かつよし)さん 1984年筑波大学医学専門学群卒業。東京都立松沢病院、筑波大学臨床医学系精神医学准教授、同大学大学院人間総合科学研究科教授、スポーツ健康システム・マネジメント専攻、ストレスマネジメント領域担当などを経て、現在、同研究科スポーツ健康システム・マネジメント専攻長、同研究科スポーツウエルネス学位プログラム運営委員長。