意外と怖い「エコノミークラス症候群」、その発症メカニズムは?
こまめな水分補給を。足の運動や深呼吸も意識して
田村知子=フリーランスエディター
大きな血栓は突然死を招くことも
「下肢で最も血栓ができやすいのは、ふくらはぎにあるヒラメ筋静脈です。ただ、ヒラメ筋静脈にできる血栓は小さいものが多いため、肺に達したとしても、末梢の細い動脈がつまる程度で、それほど危機的な状態にはなりません。一方、太ももにある大腿静脈や下腹部にある腸骨静脈では、ソーセージほどの大きな血栓ができることもあります。それほど大きな血栓が肺に達すると、肺動脈に糊状にくっついて完全に塞いでしまうので、肺が壊死する肺梗塞となり、血液が心臓に戻らなくなるため、心肺停止状態となります。大きな血栓による肺塞栓は、たとえ病院内で発生したとしても、救命措置が間に合わないことがほとんどです」(阿保医師)
飛行機に乗っている間は、同じ姿勢のままじっとしていることが多い。さらに、トイレに行く回数を減らそうと、水分摂取を控えがちな人も少なくなく、血栓ができやすい環境になってしまっている。
片足のむくみや腫れが表れたら要注意
血栓ができたときには、どんな兆候が見られるのだろうか。阿保医師によれば、よく見られるのは「足のむくみや腫れ」だという。「とくに、血栓が両足にできることはまれなので、片側の足にむくみや腫れが見られる場合は要注意です」。
「血栓が肺に飛び、肺動脈が塞がれてくると、 >咳や呼吸苦、胸の痛み、発熱といった症状が表れます。また、小さな血栓の場合は数週間かけて徐々に肺に達するので、倦怠感や冷や汗などが出てくることもあります」(阿保医師)
前述した通り、大きな血栓が肺に飛んでしまえば、急死にいたることもある。血栓ができやすい状況の際は、兆候によく注意して、心配があれば、すぐに医師に相談することが望ましい。
ただ、それよりももっと大切なのは、血栓を作らないようにすることだ。
足の運動のほか、腹式呼吸も予防になる
「エコノミークラス症候群」を予防するには、水分をこまめに摂取し、長時間同じ姿勢でいないことが大切だ。
体を動かしにくい場合には、つま先やかかとの上下運動をしたり、足首を回したり、ふくらはぎや太ももを軽くもんでマッサージしたりするといい。
足全体を締め付けることで、下肢の静脈血を心臓に戻すポンプ機能をサポートする弾性ストッキングを履くのも有効だ。「医療用でなくても、ある程度の圧力がかかるものであれば予防効果はある」(阿保医師)。女性に愛用者が多い引き締め効果のあるストッキングなどもいいそうだ。
また、阿保医師は「腹式呼吸」による深呼吸も勧めている。「深呼吸をしようとすると、背筋を伸ばすなど体勢を変えるきっかけになります。さらに、腹式呼吸では腹筋と横隔膜を使うため、大きな血栓ができやすい下腹部のあたりを刺激することになります。足の運動で運ばれてきた血液を、横隔膜の動きによってさらに引き上げ、血液循環を促すイメージですね」(阿保医師)。
日頃から足の筋肉を鍛えることも重要
飛行機に乗っているときだけでなく、環境が揃えば、血栓は誰にでもできる可能性がある。普段から適度な運動を心がけて、ふくらはぎの筋肉が血液の循環を助けるよう、ほどよく鍛えておくことも大切だ。
北青山Dクリニック 院長

1965年青森県生まれ。1993年東京大学医学部卒業。下肢静脈瘤の日帰り根治手術を日本で初めて確立したパイオニア。2000年日帰り手術(外来手術)、予防医療、アンチエイジング医療を主軸とするクリニックを開設。あらゆる下肢静脈瘤手術も日帰りで行い、開院以来、3万例を超える治療実績を持つ。自ら考案した下肢静脈瘤日帰り手術のほか、局所麻酔による鼠径ヘルニア日帰り手術、無痛の胃内視鏡(胃カメラ)検査、がん・動脈硬化発症予防のためのドック、がん遺伝子治療など、新たな領域に積極的に取り組んでいる。