最新研究で判明! 筋肉を増やす「たんぱく質プラス5g」のススメ
筋肉とたんぱく質にまつわる最新研究(上)
福島安紀=ライター
「筋肉を増やしたほうがよいのは分かっていても、筋トレは嫌い、続かない――」という人は少なくない。そんな人に朗報だ。これまで、筋肉を増やすには筋トレが必須と言われてきたが、「ほんの少したんぱく質摂取量を増やすだけで、筋肉量が増える」という注目すべき研究結果が、昨年11月、栄養分野で世界的な権威のある学術誌「Nutrition Reviews」のウェブ版で発表されたのだ。
どうすれば筋肉を増やせるのか。この研究をまとめた、医薬基盤・健康・栄養研究所国立健康・栄養研究所身体活動研究部部長の宮地元彦さんに、筋肉とたんぱく質にまつわる最新情報を聞いた。
体重1kg当たり0.1gたんぱく質を増やすだけで、筋肉は増える
たんぱく質は、筋肉(骨格筋)や肌、髪、爪、臓器、細胞、血液などの材料となり、生きていくうえで欠かせない必須栄養素だ。
宮地さんは明治と行った今回の共同研究で、たんぱく質の1日の摂取量(0.5~3.5g/kg体重)と筋肉量の関係を調べた一定以上の信頼性を持つ国内外の論文105本(被検者は合計5402人)をメタアナリシスと呼ばれる方法で総合的に解析した。
その結果分かった事実は大きく3つある。「1つは、たんぱく質の1日の総摂取量を増やせば、性別や年齢の違いや、筋トレをしているかどうかにかかわらず、一定レベルまで筋肉量は増加するということです」(宮地さん)
これまでも、たんぱく質摂取と筋肉量の関係については、筋トレを組み合わせれば増加するとの研究報告はあった。しかし、筋トレをしなくても、たんぱく質の総摂取量を増やせば筋肉量が増加することを多くの文献に基づいた総合解析で、定量的かつ科学的に示した研究は、世界で初めてという。「普段たんぱく質を少ししかとっていない人こそ、摂取量を増やすだけで一定レベルまで筋肉を増やすことができるということが確認できたことは、意味があると考えている」と宮地さん。

そして、「もう一つの画期的な事実は、今より1日のたんぱく質摂取量を体重1kg当たり、たった0.1gプラスするだけで、筋肉量が2~3カ月間で平均390g増えるということ」(宮地さん)。体重1kg当たり0.1gは、体重50kgの人なら5g、60kgの人なら6g、70kgの人なら7gに相当する。例えば、ゆで卵1個(60g)には7.7gのたんぱく質が含まれる。今の食事に5~7gたんぱく質を足すだけなら、誰でも簡単に実行できそうだ。

筋肉不足は糖尿病や熱中症のリスクを上げる
ここまで読んで「そういえば、最近、筋肉を増やせという言説を聞くことが多いな」と感じた人もいるかもしれない。筋肉の重要性やその原料になるたんぱく質の必要性が、注目されているのはなぜなのか。
それは、国内外の研究で、筋肉は単に体を動かし支えるという機能だけではなく、私たちの健康に重要な働きを担っていることが新たに分かってきているからだ。
重要な働きとは、マイオカインという体の健康を保つうえで良い働きをする生理活性物質を分泌し、脳、肝臓、骨、脂肪など他の臓器と連絡を取り合って代謝機能を調節していること。筋肉は、体の4割を占める最大の臓器なのだ。
マイオカインの働きの一例が、糖の取り込みと肝臓での脂肪の分解を促進する作用だ。
「筋肉量の少ないやせた女性が糖尿病予備群の耐糖能異常になりやすいのは、筋肉が果たす代謝機能が働きにくくなっているから。やせてきれいになりたいとダイエットをする女性は多いのですが、それを繰り返すと脂肪と一緒に筋肉も落ちて、やせていても糖尿病などの生活習慣病になりやすくなるので要注意です」と宮地さんは強調する。
実際、順天堂大学のグループが今年2月、18~29歳のやせ形の女性は、同年代の標準体重の女性と比べて、糖尿病予備群である耐糖能異常の割合が7倍も高かったとの研究結果を報告している。やせた女性は筋肉量も少ないために、肥満の人と同じように血糖値を下げるインスリンが効きにくい状態になっていることが分かったのだ。
筋肉が増えると新たな血管ができて血液の循環が良くなり、高血圧になりにくくなる。また、筋肉には体に必要な水分を保つ役割もある。高齢者が熱中症になりやすいのは筋肉が少ないために保水機能が低いからだ。