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警察署で集団感染! 過去の病気ではない結核の怖さ

死亡した患者は「スーパースプレッダー」だったのか?

 大西淳子=医学ジャーナリスト

留置男性の死亡後、10カ月以上を経て集団感染が発覚した。(© kaththea-123rf)

 今月初めに、警視庁渋谷警察署で、結核集団感染が発生していたことが明らかになりました。現在までに判明している感染者は27人に上ります。

 渋谷警察署によると、発端は、2015年2月に署内に留置していた60代の男性が体調を崩して死亡したことでした。この患者が肺結核であったと警察署に伝えられたのはおよそ半年後、8月になってからでした。

 さらに4カ月がたった2015年12月に、男性の留置を担当していた20代の署員が入院し、結核と診断されたことから、署員を対象に検査が行われ、ほかにも20代から60代の警察官や職員が結核に感染していることが明らかになったのです。署員の感染者は計19人。うち6人が発病し、発病者を含む12人が投薬治療を受けている、と報道されました。

 その後、死亡した男性の解剖を行った医師ら7人と、死亡した男性と同じ部屋に2日近く留置されていた男性1人も結核に感染していたことが判明。感染者は計27人に上っています。

 このニュースが流れる数日前に、NHKの朝の連続テレビ小説の主人公が父親を結核で亡くすシーンが放映されていたこともあって、結核に対する関心は一気に上昇。「ストップ結核パートナーシップ」日本大使を務めるタレントのJOYさんの肺結核経験談にも注目が集まりました。

1日に54人が結核を発病し、6人が死亡している日本

 さて、今回のNHKの朝ドラは、スタート時の時代を昭和初期に設定しています。当時、結核は国民病とも言われ、死亡率は高く、その状態は戦後まで続きました。しかし、治療薬の進歩に伴い結核患者は1950年以降に減少に転じ、それ以降は比較的低いレベルに抑えられてきました。

 しかし現在でも、世界の他の先進国と比べると、日本で新たに結核と診断される患者数(*1)は明らかに多いのです。2014年に日本で新たに結核と診断された患者数は、人口10万人当たり15.4人でした。他の先進国をみると、英国が12.0、フランスが7.3、オーストラリアが5.4、ドイツが5.1、米国は2.8で、日本は、結核対策においては「中進国」にとどまっています(下図)。

*1 結核菌に感染しているものの、発病していない患者(保菌者)は含まれない。
(データ出典:厚生労働省 平成26年結核登録者情報調査年報集計結果〔概況〕、日本のデータは2014年、その他の国は2013年のもの)

 具体的な数字をお示ししましょう。2014年に国内で新たに結核と診断され保健所に報告された患者の数は1万9615人、結核による死者数は2099人でした。これは、1日当たり約54人が新たに結核を発病し、約6人が結核で死亡していたことを意味します。

 同年に登録された新たな結核患者の37.7%は80歳以上でした。一方で、0~14歳の小児の新たな患者は49人(0.2%)にとどまりました。また、新規診断患者の数が多かったのは、大阪市(10万人当たり36.8)、名古屋市(同23.2)、京都市(21.8)、堺市(21.5)、神戸市(21.5)、東京23区(21.2)でした。

健康な人であれば、通常は免疫で排除される

結核菌を吸い込んでも、健康な人なら感染しにくい。(©chirawan Somsanuk-123rf)

 結核は、結核菌の感染によって起こる病気です。肺結核患者の咳やくしゃみなどを通じて空気中に飛び散った結核菌を肺の奥まで吸いこむと感染する可能性があります。感染経路は、空気感染と飛沫感染です。ただし、健康な人であれば通常、吸い込んだ結核菌は免疫などにより排除され、感染しません

 BCGワクチンの接種を受けていないために結核に対する免疫のない人や、免疫力が低下している人が結核菌を吸い込み、運悪く感染した場合、10~15%がその後1~2年のうちに発病します。発病しないまま、菌が休眠状態となって体内に留まる人もいます。

 加齢などにより免疫力が落ちたり、がんや糖尿病などの疾患になったりすると、潜んでいた結核菌が活動を始め、結核を発病することがあります。現在、高齢の患者が多いのは、結核が蔓延していた若い頃に結核菌に感染し、免疫機能の衰えと共に発病するケースが多いためです。ただし、結核菌が体内に留まっている人のうち、実際に発病するのは10~15%程度といわれています。

 結核は人から人へと感染するため、人口密度の高い大都市で、感染者も発症者も多い傾向が見られます。

結核に感染するリスクは三段階

 結核菌に感染するリスクをもう少し詳しく見ていきましょう。感染リスクは、患者周囲の空気中に存在していた結核菌の量と、その空間の中に留まっていた時間の長さによって決まります(*2)。

 感染の危険性が最も高いのは、結核菌を排出している患者(*3)と同じ空間にいた、免疫力が低下している免疫不全症などの患者や、BCGを受けていない乳幼児です(ハイリスク接触者)。

 続いて感染しやすいのは濃厚接触者です。こちらは、患者が結核菌を排出していた期間に、換気の悪い狭い空間(個室内、車内など)に、患者と共に長期間、または何度も留まっていた人をいいます。

 濃厚接触者より低い頻度、または短い時間、患者と共に過ごした非濃厚接触者にも、感染リスクはありますが、深刻ではないと考えられます。

 職場や学校などで結核患者が見つかった場合には、患者との接触の度合いを調査し、基本的には上記のように分類します。感染リスクが高いとみなされた接触者には検査を行い、必要に応じて結核治療薬の予防的な投与も実施します。

*2 結核予防会結核研究所 結核の接触者健康診断の手引き(改訂第5版)
*3 結核を発病していても、結核菌を咳や痰とともに排出する人(排菌者)と排出しない人(非排菌者)がいる。発病初期の患者や、きちんと治療を受けている患者は排菌の可能性は低い。

2週間以上続く咳は要注意!

働き盛りの人は受診が遅れがち。長引く咳は要注意。(©My Make OU-123rf)

 結核菌は主に肺の内部で増えるため、咳、痰、発熱、呼吸困難など、風邪のような症状を引き起こしますが、肺以外の腎臓、リンパ節、骨、脳などにも影響が現れることがあります。

 咳や痰が2週間以上続いたり、倦怠感、発熱、寝汗が続いたり、原因不明の体重減少があったときには、周囲の人にうつさないためにも、早めに医療機関を受診してください。日本では、働き盛りの、感染性のある(排菌している)結核患者の約3人に1人は、受診が遅れる傾向が見られています。

 結核と似た症状を引き起こす病気としては、肺炎、非結核性抗酸菌症、肺がん、気管支拡張症、良性腫瘍などが挙げられます。気になる症状があれば、子供なら小児科、大人ならば内科または呼吸器内科を受診しましょう。

指示通りに半年間治療を受ければ、基本的には治る

重症でなく、周囲に感染させる危険も低ければ外来で治療が可能です。(© takasu-Fotolia.com)

 結核を発病したのに治療を受けなければ、約半数は死亡するといわれています。結核は、治療を受ければ基本的には治る病気ですが、近年、複数の治療薬が効かない耐性菌が見つかるなど、新たな問題も明らかになっています。

 結核と診断された時点で、全身状態が悪い患者、症状が深刻な患者、周囲に感染させる危険性が高い患者には入院が指示されますが、そうでなければ、外来で処方を受けて、複数の治療薬を6カ月間服用することになります(標準治療)。

 治療開始後は、症状が消えても指示通りに服薬してください。飲み忘れや自己判断による服薬中止は、薬剤耐性菌の出現につながります。日本では、結核患者の8割以上が標準治療で完治しますが、標準治療に含まれている最も効果が高い2剤に対する耐性を獲得した結核菌(多剤耐性菌)に感染すると、さまざまな治療を受けても、約半数しか完治できません。

BCGは有効だが効果は15年程度で失われる

 結核予防に、BCGワクチンの接種は有効です。予防接種は、生後3~6カ月の乳児に1回接種されています。生後1歳までのBCGワクチン接種は、小児の結核発症を52~74%程度減らすことが示されています。ただし、効果は15年程度で失われます。

 成人の場合には、免疫力を維持することが大切です。十分な睡眠、適度な運動、適切な栄養摂取により体調を管理し、結核発症を回避しましょう。

渋谷署で死亡した患者はスーパースプレッダーだったのか?

 ここまでの情報に基づいて考えると、一般の会社員より健康で体力的にも恵まれていると思われる警察官が何人も結核に感染し、2割強が発症したことは不思議に思えます。今回の感染者が皆、「濃厚接触者」だった可能性は考えにくい気がします。また、解剖に関係した医師は、基本的な感染予防策は取っていたはずです。それでも集団感染が発生したことは、発端となった肺結核患者が「スーパースプレッダー」だった可能性を示唆します。

 スーパースプレッダーとは、通常よりも多くの人にウイルスや細菌を感染させる人を意味しますが、より規模の大きな集団感染を引き起こす理由については、一般の患者より排出する結核菌が多いのではないか、他人と濃厚接触する傾向が高いのではないか、などと考えられていますが、真相は今のところ不明です。

 すでに日本でも、多剤耐性結核菌スーパースプレッダーの存在が報告されています(*4)。これまで以上に、結核予防に注意をはらい、気になる症状があれば早めに受診するよう心がける必要があります。