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肌トラブルは全身の不調の表れ 皮膚科医が語る漢方の基本

皮膚科における、漢方の基本的な考え方と処方例

 伊藤和弘=ライター

「肌は内臓を映す鏡」という言葉もあり、肌の状態と体内の不調は深い関係がある。そのため体全体を見て治療に取り組む東洋医学のアプローチで、肌のトラブルが改善することも少なくない。積極的に漢方を取り入れた治療を行う、よしき皮膚科クリニック銀座院長の吉木伸子さんが2019年2月に行ったKampo Academiaプレスセミナー「漢方で肌を健康に美しく」から、漢方の基本的な考え方や実際の処方例を紹介しよう。

写真はイメージ=(c)Butsaya Ruengpen-123RF

 吉木さんは積極的に漢方を取り入れた治療を行い、成果を上げている。アトピー性皮膚炎などには必要に応じてステロイド剤も使うが、漢方を併用すると効果が高く、ステロイド剤の量を減らすことも可能という。

 まず、少し長くなるが、漢方の基本的な考え方を知っておこう。

陰陽と虚実で判断

 陰陽思想という言葉は聞いたことがある人も多いだろう。古代中国で生まれた哲学で、「太陽は陽」「月は陰」「男は陽」「女は陰」など、自然界に存在するものを陰と陽に分類する考え方だ。

 東洋医学では、体の状態を陰と陽に分類する(図1)。とは熱のある状態で、患部には赤みや熱い感じがある。一方、とは冷えた状態で、新陳代謝が低下している。陽の病気には黄連解毒湯(おうれんげどくとう)などの体を冷やす薬、陰の病気には人参湯(にんじんとう)や真武湯(しんぶとう)など体を温める薬が使われることが多い。

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 一方、患者の体力や抵抗力で「実証」と「虚証」に分類される(図2)。実証というのは体の抵抗力が高い状態で、体力があって筋肉質で胃腸が丈夫。虚証は体の抵抗力が弱く、体力がなくて胃腸が弱い。この虚実に陰陽を組み合わせると、陽実証、陽虚証、陰実証、陰虚証の4タイプに患者を分類できる。

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 「陽で虚の陽虚証というのは新陳代謝が盛んだけれど体力や抵抗力が弱い状態で、子どもや妊婦によく見られます。逆に陰で実の陰実証は新陳代謝が落ちているが胃腸は丈夫というような状態を指します。漢方は病名ではなく、それぞれの患者の状態に合わせたオーダーメードの薬を処方する。同じ病気でも人によって違う薬を処方する場合があるので、患者の状態を正確に判断することが大切になるんです」(吉木さん)

 肌のトラブルは全身の不調の表れ。それぞれの患者の状態をしっかり診て、健康にすることで結果的に肌のトラブルも治すというのが漢方の考え方だ。

気・血・水は不調を測る物差し

 漢方では、体内の「気(き)」「血(けつ)」「水(すい)」がうまく巡ることで健康が維持されると考える(図3)。

 「気」とは生命エネルギーのこと。これが全体に不足している状態を「気虚」、気が逆流している状態を「気逆」、気の流れが滞っている状態を「気うつ」と呼ぶ(図4)。気虚には補中益気湯(ほちゅうえっきとう)のような胃腸を丈夫にして体を温める薬、のぼせなどの症状が出やすい気逆には桂枝湯(けいしとう)のような気を引き下げる薬、気うつには気の流れを良くする作用のある半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)などを使う。

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 「血」は血液に似た概念。血の量が不足していることを「血虚」といい、皮膚が乾燥し、冷えを感じやすくなる。これには四物湯(しもつとう)や当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)などが使われることが多い。また、血の流れが悪い状態を「お血(おけつ ※『お』は『やまいだれ』に『於』と書く。以下ひらがな)」と呼ぶ(図5)。

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 「お血は運動不足、不規則な生活、冷たいものの飲食などにより表れ、女性がなりやすい。虫刺されやニキビの痕が黒く沈着しやすい人はお血の傾向があると思われます。舌を見ると、お血の舌は紫色になっています」(吉木さん)

 お血を改善する薬を「駆お血剤(くおけつざい)」と呼ぶ。当帰芍薬散、加味逍遙散(かみしょうようさん)、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)が代表的な駆お血剤だ。

 「水」は「血」以外の水分のこと。リンパ液、胃液、唾液などを指す。むくみ、のどが渇きやすい、尿の出が悪い、ひざに水がたまるなど、全身の水のバランスが悪い状態を「水毒」と呼ぶ(図6)。水毒の改善には五苓散(ごれいさん)などが使われる。

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 「水毒になるとむくみやすく、雨が降ると体調を崩しやすいなどの特徴があります。老化によっても起こり、70代以上になるとほとんどの人に血虚と水毒があります」(吉木さん)

 以上の陰陽、虚実、気・血・水という概念をベースに、漢方では個々の患者に合わせた薬を処方していく。

 実際によく使われる処方を見てみよう。

皮膚科でよく使われる漢方

 まず、代表的なものに駆お血剤(当帰芍薬散、加味逍遙散、桂枝茯苓丸など)がある。

 「お血の人は皮膚が硬く、黒っぽくなっています。目の周りがどす黒く、静脈瘤のある人も多い。こういう人は駆お血剤を使って血液の流れを良くしてあげます。特に実証でお血と水毒がある人には桂枝茯苓丸がよく効きます」(吉木さん)

いわゆる大人ニキビには駆お血剤が使われる。写真はイメージ=(c)wang Tom-123RF

 思春期を過ぎた人のニキビ、俗にいう大人ニキビにも駆お血剤が使われる。大人ニキビに対して、吉木さんは漢方薬だけで治療することが多いという。「実証の人には桂枝茯苓丸、虚証で立ちくらみをしやすいような人には当帰芍薬散を使います」(吉木さん)

 背中やお尻など、体にできるニキビには十味敗毒湯(じゅうみはいどくとう)がいい。

 続いてアトピー性皮膚炎。長引く大人のアトピー性皮膚炎に最もよく使われるのは温清飲(うんせいいん)だ。これは熱を冷ます黄連解毒湯と血行を良くして体を温める四物湯を一緒にしたもの。熱を冷ます薬を清熱剤(せいねつざい)と呼ぶが、黄連解毒湯は代表的な清熱剤。炎症と充血を伴った症状に効果がある。

 特に頭や首のアトピー性皮膚炎には、同じ清熱剤でも白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう)がよく効く。「含まれている石膏に熱感を取って肌をうるおす作用があります」(吉木さん)

 褥瘡(じょくそう、(*1))など、加齢や栄養状態の低下などで皮膚が弱くなるのは、漢方では気虚による症状と考える。足りない気を補う補中益気湯のような補剤を使う。薄く、乾燥した皮膚に栄養を与えるイメージだ。気虚に加えて血虚もある場合は同じ補剤でも十全大補湯(じゅうぜんだいほとう)がいい。

 高齢者の乾燥性皮膚疾患には地黄(じおう)という生薬が入った地黄剤を使うことが多い。

 「老化による動脈硬化や薄くなった皮膚には、八味地黄丸(はちみじおうがん)などの地黄剤を使います。掌せき膿疱症(しょうせきのうほうしょう)で足の裏にうみがたまった膿疱と呼ばれる皮疹ができた67歳の女性がいたのですが、これも八味地黄丸がよく効きました」(吉木さん)

 これから漢方を試したいと思っている方はぜひ参考にしてほしい。

*1 寝たきりなどで、体重で圧迫された部分の血流が悪くなることで、皮膚の一部が赤くなったり、ただれたりすること。「床ずれ」ともいう。

(図版作成 増田真一)

吉木伸子(よしき のぶこ)さん
よしき皮膚科クリニック銀座院長
吉木伸子(よしき のぶこ)さん 1993年横浜市立大学医学部卒業。同年慶應義塾大学病院皮膚科学教室入局。浦和市立病院(現さいたま市立病院)皮膚科などに勤務。その間、米オハイオ州クリーブランドクリニック形成外科、日本漢方研究財団附属渋谷診療所にて美容医療および東洋医学の研修を行う。98年より現職。著書に『噂の女医がこっそり教える女の不調が消える本』(主婦の友社)、『スキンケアは「引き算」が正しい』(青春出版社)、『一生ものの美肌をつくる正しいエイジングケア事典』(高橋書店)など。