新型コロナ感染者の多くに「嗅覚」や「味覚」の異常
感染の兆候としてとらえ、早期の自己隔離で感染拡大を減らせる可能性も
大西淳子=医学ジャーナリスト
風邪をひいたときに、匂いが分かりにくくなったり、食べ物の味がいつもと違って感じられたりしたことはありませんか。一般的な風邪の原因となるライノウイルスやコロナウイルスの感染が、嗅覚や味覚に異常を生じさせることは知られています。そうした症状が、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の患者にも見られるという報告が、急速に蓄積されてきています。
日本では、2020年3月27日に新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染が公表された、プロ野球・阪神タイガースの藤浪晋太郎投手が、匂いを感じなくなったことをきっかけに医療機関を受診し、PCR検査につながったことが報道されました。藤浪選手と同様に新型コロナウイルス感染が判明した、伊藤隼太外野手、長坂拳弥捕手にも味覚の異常があったようです。

「シャンプーの匂いを感じなくなった」「味が分からなくなった」
新型コロナウイルス感染症と嗅覚異常や味覚異常の関係を最初に公表したのは、ドイツBonn大学のウイルス学の教授であるHendrik Streeck氏です。Streeck氏は、エイズの原因であるHIV(ヒト免疫不全ウイルス)の専門家としてその名を知られていますが、現在は新型コロナウイルスの研究にも取り組んでいます。
Streeck氏はこれまでに、比較的軽症の新型コロナウイルス感染症患者100人以上に対して面談を行い、個々の患者が経験した症状や感染経路についての情報を収集してきました。その過程で、患者のおおよそ3分の2は、数日間にわたって嗅覚と味覚が消失した状態にあったことが明らかになりました。たとえば、シャンプーの匂いが分からなかったり、子どものオムツが汚れていることを感知できなかったり、食べ物の味が分からなくなったりした、とのことです。
Streeck氏は、2020年3月16日に公開された、ドイツの新聞のインタビュー(*1)において、こうした患者の存在を明らかにし、嗅覚や味覚の異常が現れるタイミングは明らかになっていないが、感染後、少し時間がたってからではないか、との考えを示しています。