新型コロナ感染者の多くに「嗅覚」や「味覚」の異常
感染の兆候としてとらえ、早期の自己隔離で感染拡大を減らせる可能性も
大西淳子=医学ジャーナリスト
韓国でも患者の15%に嗅覚または味覚の消失
Streeck氏による報告をきっかけに、新型コロナウイルス感染症患者の嗅覚と味覚の異常に注目が集まる中、韓国では電話による患者インタビューが行われました。聯合ニュースに3月25日に掲載された記事(*2)によると、韓国で最も感染者が多い大邱の医師たちが、3191人の新型コロナウイルス感染症患者を対象に調査したところ、488人(15.3%)が嗅覚または味覚の消失を経験した、と回答しました。調査を行った医師は「さらなる研究が必要だが、嗅覚または味覚の消失は感染後早期に現れる兆候かもしれない」と語っています。
「嗅覚消失は自己隔離を指示するためのツールになり得る」
こうした状況を受けて、英国の耳鼻咽喉科医会(ENT UK)は3月21日に、以下のような見解を公表しました(*3)。
ウイルスに感染した患者に現れる嗅覚障害のおおよそ10~15%は、一般的なコロナウイルスが原因だと報告されているため、新型コロナウイルスが嗅覚消失を引き起こすことがあっても不思議ではない。
既に、韓国、中国、イタリアで、かなりの数の新型コロナウイルス感染症患者に嗅覚消失または嗅覚減退が見られている。ドイツでは、新型コロナウイルス感染が確認された患者の3人に2人以上が、一過性の嗅覚消失を経験していた。PCR検査が広く行われている韓国においては、陽性者の30%が嗅覚消失を訴えており、それらの患者は一般に軽症だったという報告もある。
また、発症者が多い地域で、嗅覚消失以外に症状がない患者が増えているという報告が増加している。イランでは、突然の嗅覚消失だけを経験する患者が増えており、米国、フランス、北イタリアにも同様の報告がある。ENT UK理事長のNirma Kumar氏が先頃経験した4人の患者は、全員が40歳未満で、嗅覚消失以外に症状は見られなかった。そうした患者は隠れたキャリア(保因者)であり、感染拡大を引き起こす危険性があるが、現時点では、新型コロナウイルスに関するPCR検査、または自己隔離の基準を満たさない。
嗅覚や味覚の異常は、自己隔離を指示するためのツールとして利用できる可能性がある。ほかに新型コロナウイルス感染症を示唆する症状が見られない成人に、7日間の自己隔離を行うよう依頼すれば、周囲に感染を広げるリスクを低減できるかもしれない。
続いて米国耳鼻咽喉科・頭頸部外科学会(AAO-HNS)も3月22日に以下のようなリリースを発表しました(*4)。
世界の複数の国で、新型コロナウイルス感染症患者に嗅覚消失、嗅覚低減、味覚異常といった症状が見られたという報告が増えつつある。特に嗅覚消失は、新型コロナウイルスに感染しているが、他に症状がない患者にも認められている。
そこでAAO-HNSは、新型コロナウイルス感染症の可能性がある人々のスクリーニングツールに、これらの症状を加えることを提案する。アレルギー性鼻炎や、急性または慢性の鼻副鼻腔炎などの患者ではない人に、これら3症状のいずれかが見られた場合には、新型コロナウイルスに感染している可能性を考え、自己隔離を指示し、検査を実施することを検討すべきだ。
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- WHOは現時点では慎重な姿勢示す