日本経済新聞 関連サイト

ようこそ ゲスト様

日経 Gooday

ホーム  > 医療・予防  > トピックス  > 遺伝性乳がん・卵巣がん、まずは正しい知識を持とう  > 3ページ
印刷

トピックス

遺伝性乳がん・卵巣がん、まずは正しい知識を持とう

がんの発症リスク高いが、予防策とれる時代に

 塚越小枝子=ライター

[画像のクリックで拡大表示]

 それぞれにメリット・デメリットがあり、現時点で予防効果が最も高いのは発症前に乳房や卵巣・卵管を手術で取り除く方法(リスク低減手術)だ。感覚やボディイメージの変化、心理的負担などが考えられるものの、乳房切除の技術は進歩していて、両方の乳房を取り除いても、自然な仕上がりに再建することが可能だという。また、欧米ではリスク低減手術によって乳がん・卵巣がんの発症に明らかな差が生じるなどの報告がなされている。

 日本でも、2017年10月に厚生労働省研究班がまとめた診療指針で、BRCA1/2遺伝子変異が見つかった場合に予防的な乳房切除手術を「考慮してもよい」と明記され、希望すれば選べるようになった。とはいえ、医師の間でもまだ様々な見解があり、国民健康保険が適用されず自費診療になるという経済的負担や社会的に受け入れられるかどうかなどの問題もある。

 「私たち医療者は、その人に合うベストな選択肢を一緒に考えます。私たちが寄り添って歩きますから、一歩ずつ踏み出しませんかとお伝えしています」(山内さん)

 遺伝子検査やリスク低減手術が受けられる医療機関はまだ限られているものの、医療体制は徐々に整備されてきている。自分の遺伝的背景に基づいて、がんを発症する前に予防策を選択できる時代になりつつあることは確かだ。

それぞれの人の自分らしい選択は?

 プログラムの後半では、実際にHBOCと診断されてリスク低減手術を受けた当事者や、乳がんを発症し、その治療の中でHBOCについて知った人たち、遺伝カウンセラー、遺伝看護専門看護師などが登壇し、率直な思いを語り合った。

 乳がん治療の過程でHBOCのことを知った複数の当事者から共通して聞かれたのは、「乳がん治療中は目の前のことに精一杯で、遺伝のことまで考えが及ばなかった」という声だ。がんと診断されたうえに、もう一つ遺伝という問題とも向き合わなくてはならないHBOC患者が冷静に納得のいく選択をするためには、心の余裕やサポートが必要なのだ。

 遺伝に向き合う時期や、その向き合い方は次のように人それぞれ。

 Aさんは47歳で乳がんが見つかり、家族歴を調べるうちに祖母が42歳で乳がん、86歳で対側乳がん(反対側の乳房の乳がん)を、叔母が55歳で卵管がんを患ったことを知った。HBOCの説明を受け、遺伝カウンセリングを勧められるも、すぐに受ける気にはならなかった。手術前に術式を決める参考にもなるかもと再度勧められた遺伝カウンセリングで、乳がん摘出術のみでなくリスク低減手術や乳房再建手術ができると知り、遺伝子検査を受けることを決めた。結果はBRCA1/2遺伝子変異陽性だったため、反対側のリスク軽減乳房切除とリスク軽減卵巣卵管切除を行った。

 Bさんは若年性乳がんと診断され、治療後、社会復帰。治療中にHBOCの説明を受けたが、遺伝カウンセリングも遺伝子検査も受ける気になれず受けていない。

 Cさんは乳がんを発症していないが、母親が30代で乳がん、50代で対側乳がんを発症。母親の2度にわたる乳がん治療を子どもの頃からそばで見てきたため、遺伝的背景について聞いたときは非常に当てはまると思った。30歳で遺伝カウンセリングと遺伝子検査を受け、BRCA1/2遺伝子変異陽性だったが、人生のステージの中で出産や仕事などの状況も考え、出産後、今ならできるというタイミングを得てリスク低減手術に踏み切った。

 Aさんは「遺伝カウンセリングを通して多くの有益な知識だけでなく、将来への希望を得たことが大きかった。もし不安になっているなら、遺伝子検査は受けなくてもカウンセリングだけは受けておくことを勧めたい」と話す。全国の遺伝カウンセリング・遺伝子検査を受けられる施設は特定非営利活動法人日本HBOCコンソーシアムのホームページで検索できる。

 ただし、前述した通り、自分に遺伝子変異があることが分かれば兄弟姉妹や子どもに情報を共有できる反面、不安をあおる可能性もある。「知る権利」があるのと同様に「知らない権利」もある。家族の気持ちや状況も時によって変わるものなので、気になったときに医療機関へ相談すればよい。いずれにしても否応なく家族を巻き込むことになるだけに、日ごろからコミュニケーションをとって、納得のいく選択につなげたい。

「大切なのは選択肢を知り、自分に合うものを選ぶこと」

 山内さんはアンジェリーナ・ジョリーさんの「一番大切なことは、選択肢について知り、その中から自分の個性に合ったものを選ぶこと」という言葉を示し、「知識こそ力。知識を持って一緒に前に進んでいければ」と締めくくった。

 もし、自分に高い確率で乳がんや卵巣がんになりやすい遺伝子変異があるとしたら、あなたはどうするだろうか。答えは一つではないし、同じ人でもタイミングによって判断は異なるだろう。まずはそうした遺伝子変異があるという事実や、そうと分かったときにどんな選択肢があるかを知ることが大切ではないだろうか。

山内 英子(やまうち ひでこ)さん
聖路加国際病院副院長・乳腺外科部長・ブレストセンター長
山内 英子(やまうち ひでこ)さん 順天堂大学医学部卒業後、聖路加国際病院外科レジデントを経て、渡米。ハーバード大学ダナファーバー癌研究所、ジョージタウン大学ロンバーディ癌研究所等で研鑽を積む。2009年4月聖路加国際病院乳腺外科医長、2010年より現職。米国外科集中治療専門医、米国外科認定医。

先頭へ

前へ

3/3 page

RELATED ARTICLES関連する記事

医療・予防カテゴリの記事

カテゴリ記事をもっと見る

FEATURES of THEMEテーマ別特集

  • 「胃がん」撃退のため知っておきたい最新情報

    これまで多くの人の命を奪い、「死の病」であった胃がんが、「ピロリ菌」除菌の登場によって未然に防ぐことができる病気になってきた。また、万が一胃がんになってしまった場合も、胃カメラによる検診を定期的に受けていれば、超早期の段階で見つけて治療し、胃の機能をほとんど損ねることなく日常生活に戻ることができる。本特集では、近年死亡率が大きく減少している胃がんの最新事情をまとめる。

  • 寝ても取れない疲れを取るには?

    「疲労大国」といわれる日本。「頑張って仕事をすれば、ある程度疲れるのは当たり前」「休む間もないほど忙しいが、やりがいがあるから、さほど疲れは感じない」などと思っている人も多いかもしれない。だが、睡眠時間を削るような働き方を続けていると、知らぬうちに疲れはたまる。結果、「寝てもなかなか疲れがとれない」という状態に陥るばかりか、免疫力の低下や、生活習慣病の発症につながることは多くの研究で知られている。疲労の正体から、疲労回復の実践的な方法までをまとめた。

  • つらい筋トレ不要? 効率的に「お腹を凹ませる」トレーニング

    薄着の季節になると、何かと気になる“お腹ぽっこり”。短期間で何とか解消したい!と思う人は多いだろう。しかし、スポーツジムでしっかり運動するのはつらいし、運動する時間を確保するのも大変だ。そこで、今回のテーマ別特集では、手軽に実践できる「ドローイン」と「猫背姿勢の改善」で“ぽっこりお腹”を解消していこう。

テーマ別特集をもっと見る

スポーツ・エクササイズSPORTS

記事一覧をもっと見る

ダイエット・食生活DIETARY HABITS

記事一覧をもっと見る

からだケアBODY CARE

記事一覧をもっと見る

医療・予防MEDICAL CARE

記事一覧をもっと見る

「日経Goodayマイドクター会員(有料)」に会員登録すると...

  • 1オリジナルの鍵つき記事鍵つき記事がすべて読める!
  • 2医療専門家に電話相談できる!(24時間365日)
  • 3信頼できる名医の受診をサポート!※連続して180日以上ご利用の方限定

お知らせINFORMATION

SNS

日経グッデイをフォローして、
最新情報をチェック!

RSS

人気記事ランキングRANKING

  • 現在
  • 週間
  • 月間

NIKKEICopyright © 2018 Nikkei Inc. All rights reserved.