災害は体調悪化の引き金に 不足させたくない5つの栄養素
災害時の栄養を考える(2)
塚越小枝子=ライター
災害に備える食料備蓄は、乾パンやご飯などの主食だけでなく、栄養をバランスよくとれるおかずをそろえることが重要だ(前回記事「いざという時の備蓄! 災害用の食品ストック『必須4点セット』とは?」参照)。災害時は、平時よりも健康を害するリスクが高まるからだ。災害時に起こりやすい栄養や健康の問題について、東日本大震災などの被災地で避難所の栄養支援の陣頭指揮を執ってきた、国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所国際災害栄養研究室室長の笠岡(坪山)宜代さんに聞いた。
災害はあらゆる健康問題のきっかけに
「災害時は急速に健康状態が悪化するからこそ、栄養管理が大切です」と笠岡さんは言う。具体的に、災害時には次のようにさまざまな健康問題が多発するが、これらの多くが食と関連するという(図1)。

「被災現場では、過度なストレスや不安が続くことにより、多くの人は食欲がなくなり、食べられない、眠れないという悪循環に陥ります。実際、避難所で毎日同じ人に会うと、日に日に元気がなくなっていくのが分かります」(笠岡さん)
食事と睡眠がきちんととれないと、疲れがたまり、細菌やウイルスに抵抗する免疫機能も低下して風邪や感染症にかかりやすくなる。こじらせれば肺炎に至ることもあり、阪神大震災の際には、肺炎などによる「災害関連死」(直接の被害による死亡ではない、避難中や避難生活による死亡)が問題となった。
「災害関連死の原因の一つとして注目された避難所で起こる肺炎の中には、口腔環境が悪化し、口の中の細菌や残った食べ物などが誤って気管から肺に入ることで起こる『誤嚥性肺炎』も少なくないため、気をつける必要があります」(笠岡さん)
そのほか、下痢になったり、食事・水分の摂取量が減るために便秘になったりする。水分量の不足は心臓病や脳卒中など循環器疾患のリスクを高め、循環が悪くなることで深部静脈血栓症/肺塞栓症(いわゆるエコノミークラス症候群)にもつながりやすくなる。
「食事がおにぎりや菓子パン、カップ麺などの炭水化物に偏ることで、ビタミンB2の欠乏症状である口内炎も出やすくなります。口内炎は栄養不足のサインと考えて食事を見直してください」(笠岡さん)
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- 血圧・血糖値は多くの人が悪化する
