災害は体調悪化の引き金に 不足させたくない5つの栄養素
災害時の栄養を考える(2)
塚越小枝子=ライター
血圧・血糖値は多くの人が悪化する
特に注意したいのは、血圧・血糖値が短期間で急激に悪化することだ。
「避難所で避難されている方とお話すると、普段は高くない人でも多くの方が、血圧が上がったとおっしゃいます。その後、仮設住宅に移ると下がることも多いようですが…」(笠岡さん)
血圧が高くなると、心臓病や脳卒中などの循環器疾患を発症するリスクが高まる。東日本大震災の前後で被災者を比較した岩手県の研究によると、震災前と比べて震災後に脳卒中の発症が増加していた。特に75歳以上の人と、男性に多かったという。
また、岩手県陸前高田市の病院で、糖尿病患者63人を調べたデータによると、震災前と震災4カ月後で肥満度はそれほど変わらないものの、血糖値は109.4mg/dLから134.3mg/dL、過去1~2カ月の平均的な血糖値を反映するヘモグロビンA1c(HbA1c)は5.9%から6.5%へと上昇していたという報告もある。
「糖尿病で治療中の人は、災害という過度なストレス環境において急激に状態が悪化することを知っておいてほしいですし、今、糖尿病疑いの人や健康な人でも、治療が必要なレベルへと悪化してしまう可能性もあります」(笠岡さん)
さらに、長期的にも健康状態の変化が見られる。福島県で東日本大震災の際に避難所に避難した人と避難していない人を1年半追跡した健康調査によると、男女ともに避難した人の方が肥満者の割合が増えており、特に男性では約10%増加していた。
「肥満が増える要因としては、避難所や仮設住宅の生活で活動量が低下すること、精神的に落ち込んで引きこもりがちになることなど、様々なことが考えられますが、食事も少なからず影響していると考えられています」(笠岡さん)
災害時はおにぎりやカップ麺といった炭水化物中心の食事に偏りがちになるうえ、避難所には菓子パンやお菓子が山のように届く。自身でコントロールせずに、ただ提供されるもの、あるものを食べていては自然と糖質過多になりがちだ。「菓子パンしかなく、それを1日2〜3回食べてしまう」「子どもがお菓子ばかり食べて食事をとらない」といった問題が避難所ではよく見られるという。
災害時でも栄養で健康を改善できる
こうして見ると、災害はあらゆる健康問題の引き金となると言えるだろう。だからこそ、災害時でも栄養バランスを考えた食事をとることが重要であり、「自分でコントロールすることができれば健康状態は栄養で改善できる」と、笠岡さんは明言する。
図2は阪神大震災の際に、糖尿病患者を食事療法ができた人とできなかった人に分け、震災前後で比較したもの。食事療法ができなかった人は震災後に顕著にHbA1cが悪化していたのに対して、「カロリーのとり過ぎ」「食事内容のバランスの崩れ」に配慮して食事療法が維持できた人は、悪化の度合いが緩やかであることが分かる。

「同じ避難所にいても、自分で食べる量や食べ方を工夫してコントロールすることができれば、血糖の悪化を抑えられます。また、震災前の値にも差があることに注目すれば、日ごろのコントロールがうまくできていない人はおそらく悪化していますが、普段から自己コントロールのスキルを身につけて実践できている人ほど、いざという時も自分を守ることができると言えそうです」(笠岡さん)
笠岡さんによれば、「災害時はいつもの栄養問題の縮図」。日ごろの食事や生活習慣が非常時こそ問われるということを肝に銘じておきたい。
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