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口内炎が治らない! 2週間続いたら舌がんを疑おう

口腔がんの基礎知識(後編)

 小崎丈太郎=ライター

歌手の堀ちえみさんがステージ4の舌がんになったことを公表してから、舌がんや口腔(こうくう)がんに関心が集まっている。口腔がんの初期症状としては難治性の口内炎が代表格だ。ただ、一口に口内炎といっても原因も症状も様々。どんな口内炎が危険なのか、前回記事「舌がん 高い生存率、機能回復には限界も」に続き、東京医科歯科大学歯学部顎口腔外科の原田浩之教授に聞いた。

軟膏(なんこう)を塗るなどしても口内炎が2週間以上治らない場合は、口腔がんの初期症状である場合がある。写真はイメージ=(c)jedimaster-123RF

たばこやお酒が危険因子

 がんの原因となるのは遺伝子の変異。肺がんや乳がんでは、原因となる遺伝子変異が特定され、このような遺伝子変異はドライバー遺伝子変異と呼ばれている。しかし口腔がんでは、「これが原因」という遺伝子変異は特定されていない。様々な遺伝子変異の蓄積が原因になると考えられている。

 口腔がんを誘発する危険因子として、しばしば挙がるのは喫煙と飲酒。「特に、喫煙者の口腔がん発症率は非喫煙者の7倍に達し、死亡リスクも2倍から4倍ほど高くなるとの報告もある」(原田教授)

喫煙と飲酒が最大のリスク因子とされる。写真はイメージ=(c)nito500-123RF(左)、(c)Donato Fiorentino-123RF(右)
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 国立がん研究センターによる多目的コホート研究でも、男性の喫煙者が口腔・咽頭がんにかかるリスクは、非喫煙者に比べて約2.4倍高かった。したがって口腔がんの予防には禁煙が最も有効とされる。前回記事で紹介したように、南アジアで口腔がん患者が多い理由の一つがかみたばこの普及であることからも、たばこが口腔がんに関係があると見て間違いないだろう。

 またアルコール度数が高い酒にも注意が必要とされる。前述の国立がん研究センターによる多目的コホート研究では、男性の日常飲酒者(週に1回以上飲酒する人)の口腔・咽頭がんの発症リスクは、非飲酒者に比べ約1.8倍高かった。女性の場合も、日常飲酒者の口腔・咽頭がんの発症リスクは非飲酒者の5.9倍と明らかな増加が見られた。

 このほか、欠けた歯を放置したり、合わない義歯を使い続けることは日常的に粘膜を傷つけることになり、口腔がんができやすくなると考えられる。また歯石や磨き残しが多いなど口の中を不潔にしておくことも、発症のリスクを上げるとされている。

 ただ、以上の要因を排除しても口腔がんを完全に予防することはできない。

 原田教授は「喫煙や飲酒の習慣がないのに、口腔がんになった方もいる。発がんには複数の因子が作用していて、多段階的にがんに移行すると考えられる」と話す。とはいえ、禁煙し、アルコール摂取を控え気味にし、口の中を清潔に保ち、合わない入れ歯があれば矯正しておくと、口腔がんを遠ざけることは確かなようだ。

口の中の異変に気づくことが大切

 前回記事「舌がん 高い生存率、機能回復には限界も」で紹介したように、進行した口腔がんでは広範囲な切除が必要になり、後遺症も大きくなる。口腔がんをできる限り初期の段階で発見して、より軽い治療で済ませるためには、口の中の異変に早期に気がつくことが大切だ。

 例えば、誰でも経験する口内炎。ビタミンBの不足やストレス、貧血などが原因で起こり、いつも飲んでいる薬が原因になることも多い。抗菌薬や解熱剤、風邪薬や関節リウマチの治療薬などの中にも口内炎の原因になる薬がある。こうした口内炎は、多くの場合、体調が回復したり、薬を一時的にやめたりすると自然に治る。しかし、軟膏(なんこう)を塗ったり、ビタミンBを補充したりしても2週間以上治らない場合は、口腔がんの初期症状である場合がある

 一般的に口腔がんであれば、病変部が硬くなる。もし硬いものが口の中にできたら、すぐに歯科や耳鼻咽喉科を受診しよう。だが、硬さばかりに目を奪われるのもよくない。「初期の口腔がんはがん細胞が少ないので、軟らかい。目安として、2週間以上治らない口内炎がある場合は、硬さに関係なく、歯科や耳鼻咽喉科の診察を受けることがよい」と原田教授は語る。

【こんなときは歯科や耳鼻咽喉科に】

  • 口内炎が2週間以上治らない
  • 痛みを感じる部分の粘膜が白くなっている(これを白板症〔はくばんしょう〕という)
  • 白板症の中に赤い部分(紅斑)が混じっている
  • 口の中に硬いものができた

 痛みを感じる部分の粘膜が白くなってくると口腔白板症という病気である可能性がある。「この口腔白板症の中には悪性化するものや、すでにがんになりかかっているものもあり、口腔がんの代表的な前がん病変」(原田教授)だ。

舌にできた紅斑(写真提供=原田教授)
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 日本口腔腫瘍学会によると、口腔白板症のがん化率は海外では0.13~17.5%、日本では3.1~16.3%ほど。「特に、白板症の中に紅斑と呼ばれる赤い部分が混じってくると口腔がんの可能性が高くなるといわれている」(写真)と同教授は指摘する。このような症状が見られたら、一刻も早く受診しよう。

 口内炎の多くは口腔がんとは無関係だが、早期発見の手がかりになることは確かだ。気になったら、歯科や耳鼻咽喉科の医師に相談してみよう。虫歯や歯周炎の治療の過程で偶然見つかるケースもある。最近は「口腔がん検診」に力を入れる歯科医師も増えており、歯科医師会のウェブサイトで事前に実施状況を確認して受診することがお薦めだ。

原田浩之(はらだ ひろゆき)さん
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 顎口腔外科学分野教授
原田浩之(はらだ ひろゆき)さん 1991年、北海道大学歯学部卒業。北海道大学歯学部附属病院口腔外科、千葉県がんセンター頭頸科を経て、2001年に東京医科歯科大学歯学部附属病院医員。07年に同大学医歯学総合研究科顎口腔外科学分野講師、10年4月に同准教授、15年4月に同教授に就任。