コロナ変異株の感染者は死亡リスク上昇、従来株の1.6倍
英国で約11万人を追跡し、変異株と従来株の死亡率を比較
大西淳子=医学ジャーナリスト
英国で新型コロナウイルスの変異株に感染した人の死亡率は、従来の新型コロナウイルスの感染者の死亡率の1.64倍に上ることが、英国の調査で明らかになりました。論文は、2021年3月10日付のBMJ誌電子版に掲載されています(*1)。

英国では新規感染者の4分の3が変異株に感染
2020年12月19日に英国のボリス・ジョンソン首相が公表した同国における新型コロナウイルス変異株の感染者の急増を、特に欧州各国の人々は、高い危機感を持って受け止めました。早々に対策を打った国が多かったにもかかわらず、変異株感染者は短期間のうちに世界中に広がりました。
英国の調査では、2020年10月の初めには変異株感染者が同国内に存在していたことが判明。変異株の感染は、英国南東部からロンドンへ、さらに英国全土へと広がり、12月31日には、英国の新規感染者の4分の3から変異株が検出される事態になりました。
ジョンソン首相が当初示唆した、変異株の感染性(伝播のしやすさ)の上昇は既に確認されていますが、感染者の死亡リスクが従来株に比べ高いのかどうかについては、質の高い報告はありませんでした。そこで今回、英国の研究者たちは、変異株の感染者と従来株の感染者の死亡率の比較を試みました。
英国の新型コロナウイルス変異株とその検出方法
英国で2020年末に報告された新型コロナウイルスの変異株は、VOC-202012/01と名付けられており(*2)、ウイルスのゲノム情報から得られた変異の状況に基づいて、ウイルス株間の関係を示した分子系統樹では、B.1.1.7系統に属することが明らかになっている。
英国の新型コロナウイルス検査センターが用いているPCR検査の一部は、ウイルスのゲノム配列の複数の領域を検出対象にしている。変異株は、この種のPCR検査(Thermo TaqPathシステム)が検出対象としている、スパイク蛋白質をコードする遺伝子の一部に欠損があるため、変異株感染者は、スパイクを対象とするPCRでは陽性にならず(偽陰性)、それ以外の領域を対象とするPCR検査では全て陽性になる。これを指標にすれば、変異株感染者と従来株感染者をかなりの精度で区別できることが確認されたため、英国内では、ウイルスのゲノム配列を調べる代わりに、TaqPathシステムの結果に基づいて変異株感染の有無を判定し、追跡している。