【医師が語るがん体験】34歳で肺がんに。医療従事者の言葉の重みを痛感
川崎幸病院 放射線治療センター副部長・加藤大基氏
中西奈美=日経メディカル
国立がんセンターの推計によると、日本人の2人に1人はがんになります。医師であっても例外ではありません。11年前、外勤先で受けた胸部単純X線撮影で異常を指摘された、放射線科医の加藤大基氏。「なんで自分が肺がんに?」との思いは強く、検査結果や周囲からの声かけに気持ちが揺れ動いたそうです(文中敬称略)。
川崎幸病院(川崎市幸区)の放射線治療センターで副部長を務める加藤は、乳がんや前立腺がん、直腸がんなどの患者に対して、回転型のIMRTであるVMAT(強度変調放射線治療)といった最新の放射線治療を行っている。柔和な雰囲気から発せられる言葉に、不安が和らぐように感じる患者も少なくない。
加藤が「原発性肺腺がん」と診断されたのは11年前、34歳の時だった。
健診を兼ねたX線撮影で異常影

川崎幸病院 放射線治療センター副部長
1971年生まれ、99年東京大学卒業。同大附属病院、癌研究会附属病院(現、がん研有明病院)、国立国際医療センターなどを経て、2016年から現職。
(写真:室川 イサオ)
2006年4月17日、胸部X線を最後に撮ってから1年がたっていることもあり、加藤は定期検診の意味も兼ねて、非常勤として勤務しているクリニックで胸部の単純X線撮影をしてもらうことにした。
シャーカステンの明かりに照らし出された自分の胸部のフィルムを見て、加藤は驚愕した。左胸部の「境界がくっきりとした円形の影」が目に飛び込んできたからだ。影の大きさは1cm程度。加藤は皮膚表面の異物や撮影機器の故障を疑い、なんとか嫌な予感を払拭しようとした。
しかし、胸部表面に付着したものはなく、その後の前後方向・左右方向でのX線撮影でも、左肺内の陰影が映し出されたため、機器の故障はあっさり否定された。咳が続くという自覚症状もなかった。

思い返しても、1年前の職場健診で異常は指摘されておらず、3年前のCT撮影でもそれらしい所見はなかった。だが、目の前のフィルムには、誰もが確認できる大きさにまでに成長した影がある。「悪性腫瘍かもしれない」という確証のない不安が頭をよぎったが、「良性」「転移巣」と様々な可能性に思いを巡らせては、モヤモヤした気持ちを募らせた。
その2日後から、検査の日々が続いた。まず、母校の東京大学病院で胸部単純CT撮影を受けた。撮影後は、放射線科の医師と一緒にモニター画像を食い入るように見た。クリック音とともに画像が1枚1枚切り替わる瞬間が最も緊張したという。結局、左肺に実質を伴う丸みを帯びた病変があるだけで、リンパ節腫大などの異常所見は認められなかった。