日本経済新聞 関連サイト

ようこそ ゲスト様

日経 Gooday

ホーム  > 医療・予防  > トピックス  > 医師が語る、3月に自殺者が増えるのはなぜ?  > 2ページ
印刷

トピックス

医師が語る、3月に自殺者が増えるのはなぜ?

自殺について考える(上)

 田村知子=フリーランスエディター

 また、冬の間は気持ちが沈みがちでも、3月になると春の日差しが訪れることで、気分が華やいでくるのを感じる人も多いと思います。ところが、うつ状態にある人は、そうした周囲の華やぎと自分との間にギャップを強く感じてしまい、疎外感や孤独感が深まってしまうことが、100年以上前から指摘されています。海外でも特にヨーロッパでは同様の指摘があり、やはり春に自殺者が多いことが知られています。

一般的に、春は自律神経のバランスの乱れから、メンタル不調を起こしやすいといわれていますが、そうした影響もあるのでしょうか。

 医学的な範囲に限って考えると、それが大きな要因だと思います。自律神経には、体を活性化させるときに優位になる交感神経と、体を休めるときに優位になる副交感神経があり、日の出と日の入りがスイッチとなって、そのバランスが保たれています。私たち人間の体は動物と同じように、冬と夏とでコンディションが異なります。その変わり目となるのが春と秋で、その時期には体の変化とともに、自律神経のバランスも乱れやすくなるんですね。

春は就職や転職、異動や転勤、引っ越しなど、環境の変化からメンタル不調に陥ることもありそうです。

 確かにそうですね。ただ、そういった環境の変化によるメンタル不調が自殺につながってくるのは、5月ごろになると考えられます。3月に環境の変化が起こると、その状態に慣れるために懸命に頑張ります。それから少したつと日本ではゴールデンウイークを迎えるため、そこで張りつめていた緊張の糸がプツッと切れてしまい、いわゆる「五月病」と呼ばれるうつ状態を引き起こし、自殺につながることがあります。つまり、3月に次いで5月に自殺者が多いのは、こちらの要因が大きいことがうかがえます。

 余談ですが、環境の変化の中でも引っ越しは特に、うつのトリガー(引き金)となることが知られています。引っ越しの準備から新しい環境に慣れるまで緊張が続いたあとに、ふっと気が抜けることでうつ状態を引き起こす。このような現象は「荷下ろしうつ」と呼ばれています。同様の心理が働くものでは、受験に受かったあとに起こる「合格うつ」、昇格したあとに起こる「昇進うつ」などがあります。合格も昇進も喜ばしいことですが、人によってはそれまでの努力が報われたと同時に、プレッシャーや責任を感じてしまうことがあるんですね。

自殺に至るまでにはプロセスがある

これまで伺ってきたような状況に陥ったとき、自殺を考え、実行してしまう人もいれば、踏みとどまる人もいます。その選択の違いには、どのような背景があるのでしょうか。

 1つには、うつ病をはじめとする精神疾患の重症度が挙げられます。先ほど、自殺を考える人のほとんどは精神科で診断がつくレベルのうつ状態にあるとお話ししましたが、WHO(世界保健機関)が公表しているデータによれば、自殺者の実に約97%が、何らかの精神障害の診断がつく状態であったことが分かっています。

 そのうちの約3割を占めるのが、うつ病を含む気分障害。次いで、薬物やアルコール依存などの物質関連障害、統合失調症、パーソナリティー障害の診断が多くなっていて、これらが自殺に関連する4大精神疾患といわれています。また、これらは主たる診断の統計で、重複診断も含めると、自殺者の約7割がうつ病の診断がつく状態であったというリポートもあります。

 ただし、人が自殺に至るまでにはプロセスがあり、ある日突然、うつ病を発症するわけではありませんし、うつ病を発症したすべての人が自殺するわけでもありません。何らかの出来事(ライフイベント)をきっかけにうつ状態になった人は、「トンネル・ビジョン」と呼ばれる心の視野狭さくが起こっています。その状態が数カ月も続いていくと、さらに視野が狭くなり、「私はもう死ぬしかない」という気持ちに追い込まれて、自殺のプロセスが進行していく。第三者が客観的に見れば、その人が抱えている問題を解決する方法は必ずあるはずなのですが、本人にはほかの選択肢が見えなくなってしまうんですね。このプロセスを表したのが、下記の図です。

[画像のクリックで拡大表示]
※張賢徳さん作成の図を基に編集部が作成

 図を見ていただくと分かるように、うつ状態にあるときに家族や友人、職場の仲間などから適切なサポートを受けられれば、トンネル・ビジョンを脱することが可能です。また、最終段階では先ほどお話ししたように、うつ病などの精神疾患の診断がつくレベルのケースがほとんどですので、精神科での治療やそこにつなげるサポートが必要になってきます。つまり、適切なサポートの有無も自殺をするかしないかの選択につながるといえます。このサポートについては、後編で改めてお話ししたいと思います。

 ここでもう1つ重要なのは、自殺を考え、実行してしまう人と踏みとどまる人の違いには、精神疾患の重症度のほかに、個人のパーソナリティーが大きく影響するということです。

RELATED ARTICLES関連する記事

医療・予防カテゴリの記事

カテゴリ記事をもっと見る

FEATURES of THEMEテーマ別特集

  • 老化を左右する血管! 若返りのポイントは?

    体の中に縦横無尽に張り巡らされた「血管」をよい状態に保つことは、健康を維持するため、そして老化を防ぐために極めて重要だ。では、強い血管をキープし、老化した血管を若返らせるには、何をすればいいのだろうか。本特集では、2万例を超える心臓・血管手術を手がけてきたスペシャリストに、血管の若さを維持する秘訣と、血管を強くする運動法・食事法を聞いていく。

  • つらい「肩こり」は動的ストレッチで解消!

    肩こりの原因の大半は、生活習慣。すなわち、不自然な姿勢で過ごすことや、たとえ良い姿勢であっても長時間続けてしまうことが、首や背中の筋肉を緊張させ、筋疲労を引き起こす。この記事では、肩こりに関する記事の中から重要ポイントをピックアップして、肩こりの解消方法をコンパクトに紹介していく。

  • 筋肉博士が教えるロコモ予防の下半身筋トレ

    健康寿命を延ばすためには、ウォーキングやジョギングなどの有酸素運動だけでなく、「筋トレ」も重要であることが最近改めて認識されている。東京大学大学院教授で“筋肉博士”こと石井直方さんは、「寝たきりにならないためには、40~50代のうちから筋肉量を増やす意識で運動することが大切」という。そこで本特集では、石井さんに聞いた、筋トレの効果と、具体的な下半身筋トレの方法を一挙に紹介する。

テーマ別特集をもっと見る

スポーツ・エクササイズSPORTS

記事一覧をもっと見る

ダイエット・食生活DIETARY HABITS

記事一覧をもっと見る

からだケアBODY CARE

記事一覧をもっと見る

医療・予防MEDICAL CARE

記事一覧をもっと見る

「日経Goodayマイドクター会員(有料)」に会員登録すると...

  • 1オリジナルの鍵つき記事鍵つき記事がすべて読める!
  • 2医療専門家に電話相談できる!(24時間365日)
  • 3信頼できる名医の受診をサポート!※連続して180日以上ご利用の方限定

お知らせINFORMATION

SNS

日経グッデイをフォローして、
最新情報をチェック!

RSS

人気記事ランキングRANKING

  • 現在
  • 週間
  • 月間

NIKKEICopyright © 2019 Nikkei Inc. All rights reserved.