新型コロナウイルス、攻撃性の強い型は減少傾向?
103株のゲノム配列を分析、ただしこの仮説には疑問の声も
大西淳子=医学ジャーナリスト
中国の武漢市で発生し、世界中に広がっている新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のゲノム配列についての興味深い研究結果が、3月3日付のNational Science Review誌電子版に掲載されました(*1)。中国北京大学のXiaolu Tang氏らが、中国を含む複数の国の患者から分離された新型コロナウイルスのゲノム配列を詳しく調べた結果、「ウイルスは変異しているものの、そこに自然淘汰が働いて、当初多くの人に感染していた攻撃的な型のウイルスの勢いが弱まり、穏やかな型のウイルスの感染が増えている可能性がある」ことが示唆されました。
ただしこの仮説については、一部の研究者からは疑問の声もあり、著者自身も「さらに多くのウイルスの遺伝子について調べる必要がある」と述べています。

ゲノム配列の特徴から、ウイルスを2つの型に分類
2019年12月に武漢で人への感染が始まったSARS-CoV-2は、武漢の海鮮市場で取引されていたコウモリが発生源と考えられています。患者数人から分離されたウイルスのゲノム配列を比較したところ、一致率が99.9%超だったことから、コウモリからヒトへの感染が起きたのは、ごく最近であると考えられるようになりました。
著者らはまず、コウモリのコロナウイルスとヒトのSARS-CoV-2のゲノム全体の配列を比較しました。コウモリのウイルスからゲノム配列が変化して、コードされているアミノ酸配列にも変化が見られた変異はわずかでしたが、ゲノム配列は変化しているものの、アミノ酸配列には変化がない変異は数多く認められました。これは、「アミノ酸が変化するタイプの変異は、より強力な負の選択を受けた(そうした変異が生じたウイルスは淘汰されやすかった)」ことを示唆します。
さらに、SARS-CoV-2と、センザンコウ(*2)のSARS関連コロナウイルス(SARSr-CoV)や、2003年にパンデミックとなったSARSウイルス(SARS-CoV)などのゲノムを比較したところ、やはり、アミノ酸が変化するタイプの変異に対する負の選択は強力で、そうした変異のほとんど(最大で96%)が淘汰された(集団から取り除かれた)ことが推測されました。
*2 センザンコウ:体がうろこで覆われている珍しい哺乳類で、新型コロナウイルスのヒトへの感染を媒介した可能性が指摘されている。