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新型コロナウイルス、攻撃性の強い型は減少傾向?

103株のゲノム配列を分析、ただしこの仮説には疑問の声も

 大西淳子=医学ジャーナリスト

 続いて著者らは、公開されている、新型コロナウイルス感染症の患者から分離された計103株のSARS-CoV-2の全ゲノムを対象に、集団遺伝学的解析を行いました。それらのウイルス株は、2カ所に特徴的な一塩基多型(ゲノム配列のなかで1個の核酸塩基のみが変異している部分)を持っていました。それら2つの一塩基多型を指標にすると、ウイルスは2群に分類できました。103株のうち72株はこれら2カ所がCとTで、29株はTとCになっており、著者らは、前者をL型、後者をS型と命名しました。

L型の方がS型より攻撃性が強いが、淘汰されて減少?

 コウモリやセンザンコウのコロナウイルスは、すべてS型でした。これに基づいて、著者らは、S型に変異が生じてL型になったと考えました。しかし、患者から得られたウイルスの配列の7割はL型でした。このことは、ヒトからヒトに感染していく速度はS型よりL型の方が速いことを示唆します。また、L型のウイルスの配列には、S型に比べ変異が多く見られたことから、L型の方がウイルスの増殖の速度は速いと考えられました。増殖速度が速ければ、感染したヒトが発症するまでの時間は短く、速やかに悪化する可能性があります。L型の持つこうした特性は、S型に比べL型の方が、ヒトに対する攻撃性が強いことを意味する、と著者らは考えました。

 続いて著者らは、ウイルスが分離された場所とL型、S型の割合の関係を調べました。これまでに配列が解読されたウイルス株のうち、27株は武漢市で分離されたもので、うち26株(96.3%)がL型、残りの1株(3.7%)のみがS型でした。一方、武漢市以外で分離された73株では、45株(61.6%)がL型で、28株(38.4%)がS型でした(図1左)。これは、武漢市ではL型の感染が非常に多かったこと、それ以外の場所ではS型の割合が上昇していたことを示します。

 また、ウイルスが分離された時期とL型、S型の割合の関係を調べたところ、2020年1月7日までに分離された26株(すべて武漢市の市民由来)のうちの25株(96.2%)がL型、1株がS型でしたが、それ以降に分離された株では46株(62.2%)がL型で、28株(37.8%)がS型でした(図1右)。

図1 新型コロナウイルスの2つの型の割合の変化
武漢で分離されたウイルスや、流行早期の2020年1月7日までに分類されたウイルスはほとんどがL型だったが、他の地域、あるいは1月7日以降に分離されたウイルスではS型の割合が増加した。(出典:Tang X, et al. National Science Review, nwaa036)
[画像のクリックで拡大表示]

 より攻撃的であると思われたL型のウイルスの割合が徐々に減少した理由の1つとして、著者らは、中国政府が感染の予防と管理のための介入を急速に行ったことを挙げています。この努力により、「L型に強力な選択圧(淘汰圧)が働き、S型には弱い選択圧しかかからなかったために、割合が逆転に向かった可能性がある」と著者らは述べています。

仮説の検証には、より多くのデータを総合的に検討する必要

 なお、武漢から1月13日に米国に戻り、新型コロナウイルス感染症を発症した患者が、L型とS型の両方に感染していたことも分かりました。またオーストラリアでも、2株以上のウイルスに感染していた患者がいました。

 著者らは、L型とS型に関する仮説について検討を進めるためには、より多くのゲノムデータが必要であり、SARS-CoV-2のゲノム配列に関するデータ、疫学データ、臨床症状に関するデータを組み合わせた総合的な研究を速やかに行う必要がある、と述べています。

 今回の研究では、L型とS型のゲノム配列の違いの機能的な意義は検討されていません。また、感染拡大の速度や規模には、感染されるヒトの側の特性(スーパースプレッダーの存在や、人種による感染しやすさの違いなど)も関係するでしょう。特定の変異の存在頻度のみから変異の機能を推定するのは、いささか乱暴といえるかもしれません。が、そのあたりを考慮しても、興味深い報告であり、さらなる検討結果が待たれます。

(図版制作:増田真一)


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大西淳子(おおにしじゅんこ)
医学ジャーナリスト
大西淳子(おおにしじゅんこ) 筑波大学(第二学群・生物学類・医生物学専攻)卒、同大学大学院博士課程(生物科学研究科・生物物理化学専攻)修了。理学博士。公益財団法人エイズ予防財団のリサーチ・レジデントを経てフリーライター、現在に至る。研究者や医療従事者向けの専門的な記事から、科学や健康に関する一般向けの読み物まで、幅広く執筆。

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