新型コロナ肺炎に朗報、専門医も期待を寄せる「オルベスコ」の効果
日本感染症学会が3例の有効例を掲載、肺炎の重症化防ぎ急速に快方へ
亀甲綾乃=日経Gooday
吸入開始後、2日程度で急速に症状が改善
すると、同薬の吸入開始後2日程度で酸素化が改善(血液中に取り込まれる酸素の量が増加)し、食欲も回復。自力で歩けるまでに改善したため、ウイルスの陰性化を確認後、2月28日に退院しました。ほかの2人も、オルベスコの吸入を開始後、急速に快方に向かい、いずれも吸入を継続しながら経過観察中です。
現在、重症の新型コロナウイルス感染症患者には、HIV治療薬であるロピナビル・リトナビル(商品名カレトラ)などが有効である可能性が実験で示されていますが、下痢、吐き気、嘔吐、腹痛などの副作用があり、高齢者における薬物動態については十分に検討されていません。オルベスコは吸入薬で、肺の局所に作用するため、安全性が高く、新生児から高齢者まで使用することができます。
なお、オルベスコが新型コロナウイルスに抗ウイルス活性を示すメカニズムは不明で、オルベスコ以外の吸入ステロイド薬については、現時点で抗ウイルス作用は確認されていません。
岩渕氏らは、「(オルベスコの)投与時期は重症化する前の、感染早期~中期あるいは肺炎初期が望ましく、ウイルスの早期陰性化や重症肺炎への進展防止効果が期待される」と述べています。
本来の抗炎症作用も効いている? 呼吸器疾患の専門家も大きな期待
今回の報告について、呼吸器疾患のエキスパートであるJCHO東京山手メディカルセンター呼吸器内科の徳田均氏は「興味深い報告であり、これからさらに有効例が増えてくるのではないか」と期待を寄せます。
徳田氏は「自分は直接、新型コロナウイルス感染症患者の治療に当たっているわけではないが」と前置きをしつつ、これまでに発表された新型コロナウイルスによる肺炎のX線画像やCT画像の特徴や、発症から1週間ほどたってから急激に悪化して肺炎を起こすという経過から考えて、「ウイルス自体の毒性はそれほど強くなく、患者の過剰免疫反応が肺炎の発症や重症化に関与しているのではないか」との考えを示します。過剰免疫反応とは、外から入ってきた異物(病原体など)に対して体の防御システムが過剰に働くことで、免疫反応が暴走し、強い炎症を起こしてしまうことをいいます。
今回、オルベスコの投与によって患者の症状が改善したのは、同薬に認められた抗ウイルス活性に加えて、吸入ステロイド薬が持つ本来の抗炎症作用が、肺の過剰免疫反応を早期に抑えたためではないか、と徳田氏は推測します。「オルベスコは他の吸入ステロイド薬よりも粒子径が小さく、肺の奥まで届くという特徴があります。このことが功を奏した可能性は高いでしょう」(徳田氏)。投与のタイミングも重要で、「気管内挿管による人工呼吸管理が必要になるほど肺炎が重症化してしまうと、効果はまず期待できないでしょう。肺炎の発症早期に使うのがポイントだと思われます」と徳田氏。