日本経済新聞 関連サイト

ようこそ ゲスト様
日経Gooday TOP  > 医療・予防  > トピックス  > 現実味が湧かない介護をボードゲームで疑似体験  > 2ページ目
印刷

トピックス

現実味が湧かない介護をボードゲームで疑似体験

「もしもの時」をゲームで疑似体験 (下)

 福島恵美=ライター

悩むうちに自分の価値観が見えてくる

 筆者も2019年11月に東京で行われた「けあとの遭遇」の体験会に参加してみた。ボードゲームのプレーと振り返りを中心にした約2時間のプログラムだ。当日は介護職の人や会社員ら9人が参加していた。

体験会が始まった。まず佐々木さんがルールを説明していく

 ゲームは3~4人が1チームになり、皆、同じ職場の営業パーソンという設定。会社は倒産の危機にあり業績を上げるミッションが課される中、各個人でも「仕事命」「(仕事と自分の家庭を大切にする)ワークライフバランス」「親孝行」など7種類のミッションから自分自身のミッションを決め、仕事と介護の両方を意識しながらゲームを進めていく。

 最初にサイコロを振り、盤上にあるコマを動かしてからカードを引く。そのカードには「認知症の疑い」「脳卒中で倒れた」といった親の病気や、仕事にまつわるトラブル、旅行に行くなどの家族のイベントが書かれていて、その下に書かれた指示に基づいてお金を払ったり、ケアを受けるかどうかの選択をしたりする。

カードに書かれたイベント、その下に書かれた指示に基づいて様々な選択をしていく

 チームごとに職場の業績がポイントで表され、最終的に10ポイント以下だと倒産という結果に。各人が順番にプレーし、6周回れば終了となり、勝ち負けはない。

 盤上には「親の要介護度」や「親や会社などとの関係性の度合い」「個人の仕事の成績」などを示す複数の種類のコマがあり、その動かし方のルールは少々複雑。50代の私はのみ込みが悪いのか、コマの動かし方に四苦八苦する一方、仕事と介護、どちらを優先すべきかの選択も迫られてオロオロ。チームで行うため業績を上げようと仕事のほうに時間を使いすぎると、親との関係が悪化していくなど、仕事とプライベートのバランスをどう取るかが悩ましかった。

 「ゲームでは、普段の生活を送っている時に親の介護というイベントが起きる体験をしていただきます。その中で、自分自身の限られた時間をどんなことに使うのか、何を優先させるのか悩んでもらいます。すると、その方が大切にしている価値観が出てきます。『仕事命』の生き方が大事だと思っていたのに、ゲームをしてみると、案外プライベートを重視していることに気づくことも。なぜそうなったのか、プロセスを振り返ることで、自分の考え方の傾向が浮き彫りになることもあります。どのような生き方をしたいのか、それを実現するためには何が必要なのかを考えるきっかけにしていただいています」(佐々木さん)

介護の複雑さをリアルに表現

 この体験会の後、参加者に感想を聞かせてもらった。

 初めて参加した30代の女性は、子育てと介護のダブルケアの経験があり、ダブルケアの情報発信や研究事業などを行うNPO法人を発足。佐々木さんたちと新しいワークショップの開発を予定している。「介護の複雑な現状がリアルに再現され、作り込まれたゲームだと感じました。介護やプライベートより仕事を優先しても会社の業績は上がらず、家族との関係性も悪くなってしまうところがリアリティーを伴っています」と話す。

 以前に体験会を訪れたことがある50代の女性も、実際に介護と子育てのダブルケアを経験。今後、ワークショップでファシリテーターを務める予定だ。「介護と仕事が同時進行にあって、そこで何かを選択するゲームなので自分事として考えられます。私自身、介護離職をしていますが、仕事復帰した後の方が精神的に余裕を持って介護できたので、仕事は辞めないでもらいたいです」と語ってくれた。

ファシリテーターを育成したい

 これまでに「けあとの遭遇」に参加した人は、企業研修として実施した10社の従業員も含めて延べ400人ほど。濱さんは「体験者の中には、このワークショップの後に親御さんを亡くされ、ボードゲームを体験したからこそ最期に向き合って話ができたという方がいらっしゃいます。また、繰り返し体験会に参加している方も。ゲームをするメンバーが変わると、チームの雰囲気が変化するので、また違う視点を知ることができたり、自分の新たな価値観に気付いたりすることがあります」と話す。

 現在は一般向けのワークショップを東京近郊で月に1、2回開催。and familyのウェブサイトやフェイスブックで日時を伝えていて、料金は基本的に1人2000円。来年度中には名古屋や大阪などの都市部でも行う予定だ。

 ワークショップのファシリテーターも今の4人から、100人に増やすことを当面の目標に設定。介護現場での経験がある人を中心に育成し、有償で仕事をしてもらうことを考えている。社会の中で介護の状況が変われば、ゲームの内容も見直し、人生をリアルに疑似体験できる機会を作っていく。

(カメラマン 村田わかな)

佐々木将人(ささき まさと)さん and family代表取締役
>佐々木将人(ささき まさと)さん 1981年神奈川県相模原市生まれ。2004年早稲田大学法学部卒業。04年丸善石油化学入社。16年ビジネス・ブレークスルー大学大学院経営管理専攻修了(MBA)。19年and familyを創業。 介護離職防止対策アドバイザー(一般社団法人介護離職防止対策促進機構〈KABS〉)やハッピーエンディングプランナー(一般社団法人日本ハッピーエンディング協会)など介護、終活支援などの資格を持つ。
濱正樹(はま まさき)さん and family取締役
>濱正樹(はま まさき)さん 1981年長野県松本市生まれ。2006年中央大学文学部文学科卒業後、日本電気入社(営業)。12年FutureOne入社(営業)。16年ビジネス・ブレークスルー大学大学院経営管理専攻修了(MBA)。19年and familyに取締役として参画。

先頭へ

前へ

2/2 page

RELATED ARTICLES関連する記事

医療・予防カテゴリの記事

カテゴリ記事をもっと見る

FEATURES of THEMEテーマ別特集

  • 強い足腰を維持するための「骨」の強化法

    健康長寿の大敵となる「骨の脆弱化」を予防するには、若いうちから「骨を強くする生活習慣」を取り入れていくことが大切だ。このテーマ別特集では、骨が弱くなるメカニズムや危険因子、骨を強く保つための生活習慣のポイントなどについて解説していく。

  • もの忘れと認知症の関係は? 認知症リスクを下げる生活のポイント

    年を取っても認知症にはならず、脳も元気なまま一生を終えたいと誰もが思うもの。しかし、「名前が出てこない」「自分が何をしようとしたのか忘れる」といった“もの忘れ”は、中高年になると誰もが経験する。⾃分は周りと比べて、もの忘れがひどいのでは? ひょっとして認知症が始まったのか? と不安になる人も多い。このテーマ別特集では、もの忘れの原因や、将来の認知症にどうつながるのか、認知症を予防するにはどうすればいいのかについて、一挙にまとめて紹介する。

  • 痛風だけじゃない!「高すぎる尿酸値」のリスク

    尿酸値と関係する病気といえば「痛風」を思い浮かべる人が多いだろう。だが、近年の研究から、尿酸値の高い状態が続くことは、痛風だけでなく、様々な疾患の原因となることが明らかになってきた。尿酸値が高くても何の自覚症状もないため放置している人が多いが、放置は厳禁だ。本記事では、最新研究から見えてきた「高尿酸血症を放置するリスク」と、すぐに実践したい尿酸対策をまとめる。

テーマ別特集をもっと見る

スポーツ・エクササイズSPORTS

記事一覧をもっと見る

ダイエット・食生活DIETARY HABITS

記事一覧をもっと見る

からだケアBODY CARE

記事一覧をもっと見る

医療・予防MEDICAL CARE

記事一覧をもっと見る

「日経Goodayマイドクター会員(有料)」に会員登録すると...

  • 1オリジナルの鍵つき記事鍵つき記事がすべて読める!
  • 2医療専門家に電話相談できる!(24時間365日)
  • 3信頼できる名医の受診をサポート!※連続して180日以上ご利用の方限定

お知らせINFORMATION

日経Gooday新型コロナ特設

SNS

日経グッデイをフォローして、
最新情報をチェック!

RSS

人気記事ランキングRANKING

  • 現在
  • 週間
  • 月間

NIKKEICopyright © 2021 Nikkei Inc. All rights reserved.