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「高血圧パラドックス」は大きな問題 軽く見ると痛い目に

「140 / 90」以上の人は医療機関の受診を

 伊藤和弘=ライター

 2007年に日本人の死亡に関わるリスク因子を調べた研究によると、高血圧はタバコに続いてリスクの高さでは第2位だった。高血糖やアルコールよりも高く、年間約10万人が高血圧を主因とする病気で命を落としている。特に心血管病に関しては高血圧のリスクが圧倒的に高い(*3)。

(出典:Ikeda N,et al.Lancet. 2011;378(9796):1094-105.)
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 つまり、高血圧は放っておくと命に関わる病気なのだ。「グレーゾーンならば食生活や運動など生活習慣の改善でいいと思いますが、高血圧と診断されたら降圧剤を飲むべき」と楽木さんはアドバイスする。高血圧の人が降圧剤を飲んで血圧を下げると、死亡リスクが低くなることに加え、認知機能の低下予防にもつながることが確認されている。

血圧を下げすぎると危険という考えは「因果の逆転」

 一方、「無理に血圧を下げる必要はない」という異論も後を絶たない。「年齢プラス90mmHgが正常」「血圧を20mmHg以上下げると死亡が増える」などというものだ。しかし、「これらの意見にはエビデンス(科学的根拠)がない」と楽木さんは言う。

 「逆に年齢プラス90mmHgの人、例えば80歳で収縮期血圧が170mmHgの人は、治療したほうが死亡率が下がるというエビデンスがある。降圧剤でどこまで下げるかは考える必要がありますが、20mmHg以上下げると死亡が増えるという説は“因果の逆転”であり、詭弁(きべん)に過ぎません」(楽木さん)

 「因果の逆転」とは何かというと、例えば酒量と死亡率の関係を見た疫学調査によると、酒量が増えるにつれて死亡率が高くなっていく。ところが、禁酒した人たちは「日本酒を毎日3合以上飲む」人たちよりも死亡率が高かった(*4)。このデータから「禁酒は危険」と考えるのが因果の逆転。原因は禁酒ではなく、「病気などの理由で禁酒せざるを得なかった人たちがこの群に多く含まれて死亡率を押し上げてしまった」と受け取るのが正しいだろう。同じく降圧剤を飲んでいる人の中で大幅に血圧が下がった人たちにも、降圧剤以外の理由があって下がっていた人が多く含まれていた可能性がある。もともとの血圧が高かったという点を見落としてはいけない。

 2013年から行われている厚生労働省の健康日本21(第2次)(*5)では、「2022年までに40~80代の国民全体の収縮期血圧の平均値を4mmHg低下させる」ことを目標にしている。正常血圧の人も含めた平均なので小さい目標値に見えるが、全体のレベルを下げるような国民全体での取り組みとしては、減塩や運動が大事である。2015年に施行された食品表示法によって、すべての加工食品に食塩相当量の表示も義務づけられた。おかげで減塩もしやすい環境になっている。

 繰り返しになるが、高血圧は確実に死亡リスクを高くする。血管が詰まったり破れたりしてから後悔しても手遅れだ。減塩、禁煙、節酒、運動など血圧を上げない生活習慣を心がけるとともに、「140 / 90」以上の人はすぐに医療機関を受診して治療を始めたい

*3 Ikeda N,et al.Lancet. 2011;378(9796):1094-105.
*4 日本公衆衛生雑誌. 2001;48 :95-108.
*5 健康寿命の延伸などを実現するため、厚生省(現・厚生労働省)によって始められた国民健康づくり運動のこと

(図版作成 増田真一)

楽木宏実(らくぎ ひろみ)さん
大阪大学大学院医学系研究科老年・総合内科学教授
楽木宏実(らくぎ ひろみ)さん 1984年、大阪大学医学部卒業。米ハーバード大学ブリガム・アンド・ウイミンズ病院内科研究員、米スタンフォード大学心臓血管内科研究員、大阪大学大学院医学系研究科助教授などを経て、2007年に大阪大学大学院医学系研究科老年・腎臓内科学教授に就任。15年より現職。大阪大学医学部附属病院副病院長。日本老年医学会理事長、日本高血圧学会副理事長、日本心血管内分泌代謝学会理事などを務める。

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