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「日本うんこ学会」はムーブメントを起こせるか

今“排便周り”がアツい!?

 増谷彩=日経メディカル

 みなさん、寝ても覚めてもそのことばかり考えてしまうほど熱中するものに出会ったことはありますか?今回は、排便記録アプリ「ウンログ」の田口敬氏、腸内細菌叢解析サービスを開発中の沢井悠氏、横浜市立市民病院の外科医でありながら日本うんこ学会会長で、課金の代わりに観便する(!?)美少女ゲーム「うんコレ」の監修を務める石井洋介氏にお集まりいただきました。3人が熱中するのは、「便」や「腸内環境」です。

 さまざまな疾患に関係するといわれる腸内環境を考える上で、自分の便に興味を持ったり注意を払うことは必須。3人は、「正しいうんこの知識を普及させ、国民の大腸健康度の向上を目指します」「『先生うんこに行ってきます!』が自然と言える社会を目指します」を理念として掲げる日本うんこ学会に参加し、とっても真面目に排便周りの「意識変容」「行動変容」を起こそうとしているのです。対談会場のカフェで人目をはばかりつつ、便や腸内細菌についてアツく語っていただきました。

最近、腸内細菌叢や腸内環境への注目が高まっていますね。皆さん腸や便に関係するサービスを手掛けられていますので、最初に内容をざっくりご紹介いただけますか?

田口敬氏●ウンログ(東京都港区)社長。IT通信機器販売の法人営業やマーケティングサービスの企画営業を経て現職。ドコモ・イノベーションビレッジ第3期で審査員賞とオーディエンス賞を受賞。排便記録アプリ「ウンログ」や、ヘルスケア関連メディア「ウンラボ」を手掛ける。オーダーメードで作成したウンログマスコットの帽子がトレードマーク。

田口 排便を記録・観察して健康管理をしようというiPhoneアプリ「ウンログ」を手掛けています。うんちを通じて日々の体調を知っていくことで、自然と食べ物に気を付けるようになったりとか、自分の行動を意識するようになるんです。ダウンロード数は24万件で、利用者の約9割が女性ユーザーです。特徴はかわいい・簡単・楽しいで、記録を継続してもらうための仕掛けをいろいろ施しています。

 私は、アレルギー体質に長年悩まされてきました。運動後に蕁麻疹が出たりするため、運動する前日に抗ヒスタミン薬を内服するような状況でした。あるとき、免疫異常は腸内環境に左右されるという説を耳にし、毎日ヨーグルトを食べたり和食中心にしたりと腸内環境に良いとされる行動を取ってみました。その結果、症状は改善し、今では運動しても全く問題なくなりました。この「腸活」のすごさをもっと知ってほしいと考え、このアプリを作成しました。

ウンログ画面。排便以外にも、肌の調子や気分、薬剤の内服状況、月経周期などの記録もできる(左)。排便は色や形状、膨満感、臭いを選択して登録(中)。記録した内容は、カレンダー形式やログ形式などで表示できる(右)。
沢井悠氏●サイキンソー(東京都新宿区)社長。遺伝子やゲノムに関する研究開発の支援企業ジナリスを経て、2014年11月に起業し現職。2015年前半のサービス開始を目標に、腸内細菌叢の検査サービスなどを開発中。

沢井 私も腸内環境に着目しました。今は起業したばかりで、2015年の夏前を目標にサービス開発中ですが、ある研究機関と協力して、ヒトの腸内細菌叢(マイクロバイオーム)のパターンをDNA解析によって評価するサービスを行いたいと考えています。「第二のゲノム」とも言われるヒトの常在細菌叢のうち、個人の食習慣や生活習慣を反映して変化する腸内細菌叢は、生活習慣病の発症リスクや消化器疾患の発症リスクの評価に応用できるんです。具体的には、大便内に含まれる腸内細菌をざっくりと数十種類に分類して実測し、腸内環境を評価しようとしています。その上で、個人に合った食生活を提案したりしたいと考えています。価格は未定ですが、フィットネスジムの1カ月分の利用料くらいを想定しています。

田口 食生活で腸内細菌の悪玉菌率が高まるとか、そういう変化にすごく興味あります。

沢井 高脂肪、高蛋白を好む腸内細菌が悪玉という説がありますね。

石井 大腸癌の罹患率が一番高いのってドイツ人なんです。ソーセージとかハムとかを好むから肉が問題だと考えられていたけど、最近はもしかしたら加工肉に含まれる添加物が一番悪いんじゃないか?という説も唱えられています。

沢井 腸内細菌叢からいろんなことが分かりそうですよね。これまで私はバイオテクノロジー業界で新薬の開発などに携わってきましたが、バイオテクノロジーをもっと身近なものにしたいという思いがありました。最近注目を集めている個人向けの遺伝子検査サービスは、認知度を高める上では成功した事例だと思っています。私も、バイオテクノロジーを活用して生活をより良いものにするようなサービスを提供したいと考えています。

石井洋介氏●日本うんこ学会会長。横浜市立市民病院外科医でもある。自身が潰瘍性大腸炎に罹患した経験から外科医を目指す。現在は大腸癌の検診率向上や“排便周り”へのスティグマ解消を目指す日本うんこ学会を立ち上げ、「うんコレ」の医学監修を務める。取材で写真を撮られるときはももクロTシャツで挑むことを、このほど決意。

石井 身近なものにするという視点はとても重要ですよね。消化器外科医として一番ショックなのは、見つかった時点で既に手術ではどうにもできない状態にまで癌が進行してしまっている人がいることです。そのため、かねてから「大腸癌検診の受診率を向上したい」という思いがありました。ただ、検診の重要性って多くの啓発が行われているので意外と周知されているんです。でも患者さんに聞いてみると、企業が義務化している検診にすら行っていない。重要性を知ることと、行動することは別なんです。私たちは、どうしたら人が行動したくなるのかを徹底的に考えました。

 それで、2015年夏のリリースを目指し、日本うんこ学会が開発しているのが、腸内細菌を擬人化したゲーム「うんコレ」です。なんでゲームなのかというと、腸内の疾患に気が付くために重要な便の観察(観便)を継続してもらうためです。人によって、便には個体差がある。こういう便はダメ、こういう便は良いということよりも、自分の体内の変化を察知することがなによりも大事だと思います。そのためには自分で観便するしかない。でも自分でやってみて感じたのは、ただ便を観察するのってすぐに飽きてしまうということ。特に男性だとモチベーション維持が難しいと思いました。そこで癌や健康についての正しい知識を提供しつつ、観便のモチベーションを保てる仕組みをゲームで作って楽しく排便ログを付けられるようにしたいと思っています。排便ログは腸内環境を知るための基本ですし、いわば自分の「うんこプラットフォーム」を作ってほしいですね。

うんコレは、腸内細菌を擬人化して美少女キャラ化。普段はかわいらしいコスチュームを身に付けているが、悪玉菌化すると表情やコスチュームが邪悪な雰囲気に変化する。
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石井 ゲームの内容は、画面をタップして癌細胞をイメージして擬人化した敵キャラクターを倒していくカードバトルゲームを考えています。ゲームを起動するとその日の排便状況を聞かれて、それに回答するとガチャを引くことができます。ガチャでは敵キャラクターとの戦闘に有利になるアイテムを獲得することができるという仕組みです。さらに、「検便した」というときは、レアなアイテムが出るガチャを引くことができるようにしたりして、便に対する意識を高めてほしいと思っています。

 キャラについてですが、私自身は元々うんこをデフォルメしたキャラを考えていました。しかし、現在うんコレプロデューサーを務める前田地生氏に相談したところ、「もろうんこキャラはアプリやLINEスタンプの審査を通してもらえないかもしれない。そもそもユーザーもうんこのキャラを毎日見たいと思うだろうか」と指摘されました。まさにおっしゃる通り。そこで前田氏が提案してくれたのが、美少女キャラだったんです。

田口 審査は、私もちょっと苦労しました…。ウンログのキャラはうんこデフォルメキャラですから。アップルの審査を通すために、このキャラは「Japanese ghost(日本のお化け)」なのだと言い張りました。さらに、アプリ内ではうんことかうんちとか、そういう言葉を排除して、「大」とか「ウン」とかに置き換えています(笑)

 記録を継続してもらうための工夫としては、排便に関する悩みをつぶやけるSNS要素を取り入れたり、排尿記録など要望が多かった機能を新たに取り入れたりしています。まずは排便を記録する習慣を作って、細菌叢の検査とか検診とか、その先の行動につなげていきたいですね。

「Japanese ghost(日本のお化け)」?(まれに隠れキャラが出現する)

沢井 便って実際ほとんど腸内細菌ですからね。便に興味を持つようになったら次は細菌叢の検査もしよう、となるように、全てのハードルを少しずつ下げたいですね。

 2年くらい前にちょっと病気をして、入院と手術が必要になりました。そのとき、個人負担が少ない日本の医療制度の良さを改めて実感したんです。この医療制度を永続可能なものにするためには「予防」が重要で、さらに一歩踏み込んでこれらの行動が未来への「投資」と考える価値観を広めたいです。

 検査ってハードルが高いから、普通に会社が勧めても受けない。だからゲーム性を取り入れたりして、間口を広げることが重要ですよね。

石井 おもしろ半分で意識を変えていきたいですね。癌になって抗癌剤に高いお金を払う前に「投資」してほしいです。

 うんコレの発想の基にもなっている「艦隊これくしょん(艦これ)」というゲームは、艦隊を育成するシミュレーションゲームで、艦隊が擬人化されているんです。このゲームのファンは、ゲームを通じて艦隊そのものにも興味を持ち、いろいろ調べたりし始める。うんコレも、ゲームを通じて腸内細菌に親しみを持って調べてもらえたらいいなと思っています。

これからさらにやっていきたいこととか、追加したい機能などはありますか?

周囲を気にしながらも、排便や腸内細菌についてアツく語っていただいた3人。
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田口 ウンログは、アウトプットを見てインプットを意識するようになる「マインドフルアウトプット」を提唱しています。冒頭でお話したとおり、これまで全く気にしていなかった便に意識を向ければ、入り口の食生活改善などの行動変容につながると思います。これからは、食事内容を記録するアプリも強化していきたいと思っています。

 それから、ペットや赤ちゃんに特化したウンログを開発する準備をしています。言葉で意思疎通ができないペットや赤ちゃんは、体を触ったりうんちを見て体調管理をしてあげる必要があります。ここは、ウンログの価値が最大限に生かせるところだと思っています。

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石井 ゲームで、排便を記録したらいいことが起こるようにしたいですね。位置情報ゲームみたいな要素を取り入れるのもありだと思ってますね。検診会場とか、癌に関する講演会に行ったらポイントもらえるとか…。ゲームを通じて、ダイレクトに現実世界での行動変容につなげられるかもしれないと考えてます。

 ゲーム以外にも腸内細菌図鑑や動画、絵本など、いろんなコンテンツを作って行きたいと思っています。

沢井 私は健康診断や人間ドックで腸内細菌叢の検査が受けられるようにしていきたいですね。ウンログやうんコレとも協力して、そこから検査の申し込みができるような仕組みも話し合っています。

 また、腸内細菌のパターンは生活習慣次第で変化します。継続的に自分の腸内環境をモニタリングできるようなオンラインの仕組みも整えていきたいです。

石井氏が会長を務める「日本うんこ学会」には、お2人も協力企業として名を連ねています。今後学会でやっていきたいことを教えてください。

石井 はい、そもそもうんこネタは中学2年生で卒業、以後タブーみたいな世間のイメージを変えたいと思っています。うんこを真面目に考えることは、とっても大事なことなんだ!って。いや、やっぱり公の場で口にするのははばかられますけど(笑)

沢井 検診のリピート率ってどうなんでしょうね。タブー視されなくなって、観便を自然と意識するようになれば、検診の受診率だけでなく、リピート率も向上するでしょうね。

石井 2015年6月には、今日集まった3社合同で日本うんこ学会のイベントを開催予定です。その場で検便キットを配ったりして、行動変容を促せるような企画を今いろいろと検討中です。

 そういえば、先日まずはうんコレ製作チームで便潜血の検査をしてみようと全員で受けてみました。その結果、総監修を務める木野瀬友人氏が陽性になって、彼は内視鏡検査までしてきましたからね。さっそく行動変容につながっています(笑)

この記事は、日経メディカルが運営する若手医師・医学生向けサイト「Cadetto.jp」の2015年2月3日付け記事からの転載です。「ウンログ」や「うんコレ」については、発売中の「日経ヘルス 2015年3月号」(日経BP)の記事も合わせてご覧ください!