生活様式が変化して2年余り。ニューノーマル時代に適応しつつも、まだまだストレスフルな生活を余儀なくされている人は多いのではないだろうか。そんな中、日経ヘルス・日経Gooday主催、ヤクルト本社協賛のセミナー「健康を共に、学び・考え・実践する“健康マネジメント塾”」が、2021年12月14日にオンラインで開催された。近年では、腸と脳がお互いに影響し合う「脳腸相関」という現象に、腸内細菌が関わっていることが明らかになってきている。腸から心身を整え、パフォーマンスを最大化するための最新の知見をレポートする。
キーノートスピーチ:腸から始める健康マネジメント~脳にはたらきかけるプロバイオティクス~
「ストレス社会」と言われる現代。「緊張するとおなかが痛くなる」というように、脳から腸の状態への影響を体感したことがある人も多いだろう。例えば、不安や緊張を感じた時に、腹痛や下痢などの症状が続いたことがある人もいるのではないか。これは、脳で感じたストレス(刺激)が脳内での腸の調整システムを乱し、自律神経を介して腸に伝わるためと考えられている。
このように、脳(メンタル)と腸は相互に影響を及ぼす「脳腸相関」の関係にあることは知られているが、「近年の研究では、脳から腸に影響を与えるだけでなく、腸の情報が迷走神経や血液を介して脳に伝わり、脳機能にも影響を及ぼすことが分かってきた」と徳島大学大学院医歯薬学研究部准教授の西田憲生先生は言う。
「第二の脳」とも呼ばれる腸は、独自の神経ネットワークを持ち、脳から独立して活動できる唯一の器官だ。生物の進化の過程から見ると、腸の機能は初期に獲得した原始的な(生きていくのに欠かせない)機能であり、脳はより複雑な環境に適応するために後から作られたものだという。「腸は消化吸収のはたらきだけでなく、腸管神経系と呼ばれる独自の神経ネットワークのほか、ホルモンを分泌する腸管内分泌細胞、体の半数以上の免疫細胞を持ち、これらの情報は神経や血流を介して体全体に伝わる。特に脳と腸の情報交換のカギとなるのが迷走神経で、その情報交換量の割合は脳から腸は10%、腸から脳は90%と非常に多くの情報を伝達している」と西田先生は解説する。
その腸に存在する腸内細菌叢は、昨今我々の健康と密接に関わる存在として注目されている。「腸の健康には、腸内細菌が多様性を保っている状態(この講演では「シンバイオーシス」とします)が重要だと考えられており、逆に多様性が失われる(この講演では「ディスバイオーシス」とします)と、糖尿病やがん、肥満などの身体症状のほか、うつ病などの神経疾患の発症につながるという研究報告もある」と西田先生。腸内細菌の調整による、子どもの自閉症症状に対する研究も注目されており、世界中で腸内細菌とシンバイオーシスを目指した治療や研究が盛んに行われている状況だという。
そんな中で、腸に有益な細菌が、脳機能に影響を与えるということも分かってきた。進級試験を目前にストレスを感じている医学部の4年生に、100mlに1000億個の乳酸菌(L.カゼイ・シロタ株※)を含む飲料を8週間継続して飲んでもらったところ、疑似飲料群に比べてストレスの体感が有意に低くなり、ストレスの指標となるホルモンの上昇も抑制された。また、腹痛などストレスに伴う身体症状の発現頻度も低く抑えられたことが分かった。さらに腸内細菌叢を見ると、L.カゼイ・シロタ株含有飲料飲用群では菌の多様性が保たれた状態で試験日を迎えられていたという。
一方、ストレスは「睡眠の質」を低下させる要因の1つ。先ほどの学生らの脳波を測定して眠りの質を調べたところ、L.カゼイ・シロタ株含有飲料飲用群は疑似飲料飲用群に比べて、熟眠時間、睡眠の深さ(熟睡度)は良好に保たれ、アンケートによる睡眠の体感調査では、起床時の睡眠スコアが良好な値を示したという。
この研究から、L.カゼイ・シロタ株が脳腸相関を介して一時的なストレスを緩和し、睡眠の質を高めるはたらきが明らかになった。このメカニズムについて西田先生は、「腸内細菌が多様性を保つことで過剰なストレス応答を抑制し、ストレスからの回復(レジリエンス)を高めると考えられる」と解説した。
腸内細菌叢を整えることも、心身のマネジメントに役立つ時代。まずは身近で入手しやすいプロバイオティクスを試すことも有効と言えそうだ。
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