トークセッション:これからのウェルビーイング(=心身が健康で社会的にも満たされた状態)のために知っておきたい「脳腸相関」
第2部では、日経BP総合研究所客員研究員・西沢邦浩が加わり、トークセッションを開催した。

話題の中心となったのは、腸から心身を整えてウェルビーイングを保つための食生活と秘訣について。「腸内細菌の多様性を保つには、多様な菌のエサとなる栄養素をバランスよく摂ることが大切。発酵食品に含まれる乳酸菌やビフィズス菌のほか、有用菌のエサとなる食物繊維やオリゴ糖を摂るのも効果的」と西田先生。腸内の有用菌が代謝時に産生する短鎖脂肪酸には、腸のエネルギー源となって腸のバリア機能を高めたり、腸のはたらきを良くしたりする作用があるという。
さらにストレスや睡眠の観点では、「(幸せホルモンと呼ばれる)セロトニンの原料、トリプトファンが多い食事(大豆製品や乳製品)も良い。また。高炭水化物の食品を摂るとノンレム睡眠(深い睡眠)が減るという研究がある。睡眠改善のためには過剰な炭水化物の摂取を控えたり、摂る際には食物繊維を含む炭水化物を選ぶのがいいだろう」(西田先生)
一方で、腸の健康のためには、腸と全身をつなぐ自律神経のバランスを整えることも重要だという。「自律神経を整えるためには、適度な運動や睡眠をとるほか、人と適度なコミュニケーションをとるなどして精神を安定させることも大事。腸内環境と自律神経はお互いの状態に影響を与え合っているため、昔から言われるようにしっかり寝てバランスよく食べ、生活習慣を整えることが先決だ」(西田先生)
また、自分の腸の状態を知るには、便をチェックするのが一番だという。「健康な便は、酸っぱい匂いがする。腸は我々の健康のバロメーター。毎日便の状態をチェックすることが健康管理に役立つ」とアドバイスした。
腸と健康に関する多くの質問が寄せられた
トークセッションの後半では、参加者から寄せられた多数の質問にも回答した。その一例をご紹介しよう。
Q:
乳酸菌にはいろいろな種類があるが、自分に合った乳酸菌の見つけ方は?
A: 人によって合う乳酸菌は異なるが、合うものは1~2週間継続するとおなかの調子が良くなるのを実感できるはず。迷走神経を介した腸管の情報は、脳内の報酬経路(*)にも影響を与えるため、「何だか気分がいい」「ふと手を伸ばしたくなる」ものが合っている。機能性のエビデンスがあり、菌数が多いものを基準に選び、継続して飲むといい。
Q:
ビフィズス菌と乳酸菌の違いは?
A: それぞれ生息場所が違って、ビフィズス菌は大腸に多くすむが、乳酸菌はその手前の小腸でも生きていける。乳酸菌は小腸のホルモン分泌などの機能にも影響を与えると考えられる。
Q:
ストレスを感じるとすぐにおなかを下してしまうのはなぜ?
A: 迷走神経が極度に活性化して、腸液(腸の消化液)がたくさん出ることで、下痢のような症状になると考えられる。この症状が長く続くと「過敏性腸症候群」と呼ばれるが、プロバイオティクスなどで腸の環境を整えることで、症状をある程度抑えられるという報告もある。
Q:
認知症の発症と腸の関係について、いま何か分かってきているのでしょうか?
A: 昨今では、疾患全般に慢性炎症が関わっていると考えられているが、腸の状態が悪くなると、腸で作られる短鎖脂肪酸が減り、結果的に慢性炎症状態が起きやすくなると考えられる。腸の環境を整えることで、全身の炎症反応を抑え、認知症ほか様々な疾患の発症を遅らせたり、予防できたりという可能性が期待されている。
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取材・文/渡辺満樹子