終末期の人との接し方 相手が望む話の聞き方とは?
「今日が人生最後の日だと思って生きなさい」著者に聞く(2)
西門和美=フリーライター
「いいことを言おう」と思わなくていい
小沢さんは、終末期の援助的コミュニケーションについてこう語る。「苦しんでいる人は、自分の苦しみを分かってくれる人がいるとうれしいんです。だから、苦しみを打ち明けられたとき『いいことを言おう』『的確な説明をしよう』と思う必要はない。理解者だと思ってもらうために必要なのは、とにかく聞くことです」
聞くときには、ときに沈黙も必要だ。「うれしい話であれば、躊躇(ちゅうちょ)なくすぐに言葉にできるかもしれません。でも、苦しみを言葉にするにはエネルギーが必要。時間がかかります」。だからこそ、相手の言葉がなかなか続かないときは、沈黙の中で待つ姿勢を大切にしたい。
「すぐに言葉にならないときは『何を話そうか』と思いを巡らせているのかもしれません。新たな質問で追い打ちをかけることなく、静かに待ちましょう。もしくは、邪魔にならない程度に『今、何を考えていますか?』と尋ねてみるのもいい。そうして少しずつ、相手のメッセージをキャッチして反復するんです」
このとき注意したいのは、相手の感情を先取りしようとしないこと。同じものに接しても、そこで生じる感情は一人ひとり違う。桜の花を見て「きれいだな。うれしい」と思う人もいれば、「人生最後の桜かもしれない。悲しい」と思う人もいる。ここで「うれしいですね」と自分の感情を先に出してしまうと「分かってくれた」とは思われにくい。だからこそ、黙って相手の言葉を待つ。その姿勢が、理解者だと思ってもらううえでは重要なのだ。
反復や問いかけが重要なワケ
相手から出てきた言葉は、反復や問いかけによって強めることができる。「家族のことが心配で眠れなかった」という人は、家族の存在が心を占めていて、支えになっているのかもしれない。「つらいときに支えになったものはありますか?」と尋ねるなどして、家族について語ってもらうのもいいだろう。その中で「分かってくれた」という思いが引き出されるかもしれない。支えの大切さに気づき、穏やかさがもたらされることもあるだろう。
「苦しみをなくすことはできません」と、小沢さんは語る。「しかし、苦しんでいる人は、自分の苦しみを理解してくれる人がいるとうれしい。そして、生きる支えがあれば、苦しみの中でも穏やかに過ごせるのではないでしょうか」
ホスピス医 めぐみ在宅クリニック院長
