全ての人が前向きに年を重ね、自分らしい人生を全うする 「プロダクティブ・エイジング(PA)」。その実現を目指す「プロダクティブ・エイジング コンソーシアム(PAC)」による「第2回PAC国際シンポジウム」が、2021年11月24日にオンラインで開催された。 当日は、第一線の老化制御研究や技術の発表、日本人の老化に関するインサイト調査結果報告のほか、プロマラソンランナー大迫傑氏をはじめ各分野のプロフェッショナルが最先端の知見を披露。コロナ禍以降の世界で、どのようなライフスタイルや生き方を志向すべきなのか、“プロダクティブ・エイジング”実現のための最先端の取り組みを世界に向けて発信した。その様子をレポートする。

【参画企業】オリエンタル酵母工業/島津製作所/帝人/東京海上日動火災保険/ポラリス/ミルテル/明治ホールディングス 【世話人】NOMON
「プロダクティブ・エイジング」の最新情報を世界に発信
冒頭挨拶では、PAC理事で明治ホールディングス執行役員の谷口茂氏が登壇。「コロナ禍で人との関わりが制限され、高齢者の体力や認知機能の低下、孤立などの社会課題が改めて浮き彫りになった。こうした状況下で、いかに元気に前向きに年を重ねて生きていくかが課題。PACではその解決のための情報を積極的に発信していきたい」と力を込めた。

続いてPAC参画企業の2社が、健康寿命延伸のための社会実装活動について報告。国内大手保険グループの東京海上日動火災保険の平山寧氏は、次世代の都市計画「スマートシティ」における健康増進プロジェクトについて報告。
従来の保険会社は事故発生時に保険金を支払うことで価値提供をしてきたが、「今後はデータを解析・活用することで事故前にも価値を提供していく。具体的には、IoTデータを解析し事故の予兆を検知するモデルを作ったり、過去の事故事例を分析し、事故が起きたときの被害を最小限に抑えるサービスを開発することで、住民が安心して暮らせるスマートシティの実現に貢献したい。リスク領域で培った膨大なデータや知見、技術をもとに、市民の健康増進、医療体験のスマート化、高齢者向けの施策を進めている」と述べた。

一方、オムニコム・ヘルス・グループ・アジア・パシフィックの荒木崇氏は、コミュニケーションを通してヘルシーライフを実現する同社の取り組みを紹介。加齢とともに起こる「加齢黄斑変性疾患」や「不眠」などの疾患啓発、栄養と健康改善のセミナー開催などの取り組みのほか、コロナ禍における健康寿命延伸のための幅広い活動にも触れた。「パンデミックにおいては、大幅に低下するQOL(クオリティ・オブ・ライフ)をいかに向上・克服するかが課題。その解決のために、ワクチン接種啓発活動、こども食堂支援活動、SMA(脊髄性筋萎縮症)患者のeスポーツ大会などを実施した」と報告した。
インサイト調査報告:日本人の老化に対する実態とニーズ、今後の課題

オムニコム・ヘルス・グループ・アジア・パシフィックの小林伸行氏は、全国に住む35~74歳の男女1500人に対して行った、老化に対するニーズや実態に関する調査結果を報告。「調査において、幅広い世代において7割以上の人が『老化が気になっている』と答え、さらに7割近くが『日常生活に老化の影響が出ている』と回答した」という。さらに、老化に対する考え方に関する質問では、「いくつになってもワクワクしていたい」「若いねと言われることはうれしい」「自然に年を重ねることは素敵なことだ」など、老化をポジティブに捉える回答が全世代共通のニーズとして挙がり、逆に「老化は仕方ない」「老化対策はまだ自分には関係ない」といった消極的な意見はスコアが低く、全体的に老化に対しては非常にポジティブに捉えていることが明らかになった。
さらに老化に対する考え方やどのように生きたいかという価値観をもとに散布図を分析した結果、大きく5タイプに分類できたが、その一方で全てのタイプにおいて、老化対策の行動に大差がないことも明らかになったという。
「幅広い年代の生活者が老化を気にしており、その根底に『いくつになってもワクワクしていたい』『自然に健康的に年をとりたい』『老化をあきらめたくない』という共通のニーズを持っている。しかしながら、世代やタイプごとに行動に大差がない理由を推測すると、健康に関する正しい情報や知識が不足しているために行動につながっていないと考えられる。この部分を課題と捉え、きちんと情報発信していくことが大切だ」と今後の課題を述べた。

調査から浮き彫りにされた課題を受けて、PAC事務局/NOMON取締役COOの狩野理延氏は、今後のPACの活動指針となる「プロダクティブ・エイジング宣言2021」を発表。「生活者のインサイトやニーズを実現するためにも、今後も情報配信や新サービスの提供など、業種やジャンルを超えて協力し活動していきたい」と強調した。
弘前発、オープンイノベーションを活用した健康長寿社会システムの実現

続く企画講演では弘前大学の村下公一氏が登壇し、弘前大学COIの取り組みについて紹介。COI(センター・オブ・イノベーション)とは、文部科学省が13年に定めた産学連携のイノベーション拠点のことだ。
「青森県は、日本で最も平均寿命が短いことで有名だ。我々は短命県返上、地域や世界の健康長寿社会の実現を目指して、50に及ぶ企業や大学、研究機関など、産学官民が連携したオープンな体制のなかで協働し、健康長寿のイノベーション実現に取り組んでいる」と村下氏。
弘前大学COIの最大の強みが、世界無二の健康ビッグデータを有することだ。弘前大学では05年から弘前市岩木地区にて「岩木健康増進プロジェクト」を実施するなかで、分子生物学的データから社会環境的データまで約3000項目を測定し、17年間で延べ2万人以上の超多項目データを集積してきた。「多大学間連携チームを作り、最新の統計学やAIを用いてビッグデータ解析を行っている。さらにデータを企業や大学間で共有・活用し、生活習慣病や認知症などの予兆発見、予防法の開発を目指している」という。
今後の戦略として、AIによるシミュレーションの結果を現実世界に生かす「デジタルツイン」の構想も紹介し、「住む人が心身的・社会的に自然に健康になるようなウェルビーイングな社会システムづくりを、弘前から進めていきたい」と展望を語った。