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その肩の痛み、五十肩ではなく「肩腱板断裂」かも!

50歳以上の4人に1人が起こす肩腱板断裂、超音波で素早い診断・治療が可能に

 田中美香=医療ジャーナリスト

 中高年に多い肩の痛みといえば、いわゆる四十肩・五十肩(以下、五十肩)を思い浮かべる人が多いだろう。「年をとれば肩が痛くても仕方ない」と放置する人も多いが、腱が切れる「肩腱板断裂」の可能性があることはあまり知られていない。
 近年、高齢化に伴って肩腱板断裂が増えていることを受け、ジョンソン・エンド・ジョンソンは、2018年11月28日に肩腱板断裂に関するメディアセミナーを開催。運動器エコー診断のパイオニア、皆川洋至(みながわひろし)氏の講演から、肩腱板断裂の現状と最新治療についてポイントを紹介しよう。

肩が痛い、上がらない…その症状は、腱が切れる「肩腱板断裂」かも

 肩が痛くて洗濯物を干せない、シャンプーするのがつらい…そんな症状が出たとき、多くの人が疑うのが、いわゆる五十肩だろう。そして、「放っておけば治るらしい」という噂を聞いて、受診しないまま痛みに耐えるのが現状ではないだろうか。だが、整形外科における超音波診療のパイオニア、皆川洋至氏(城東整形外科副院長)は、「肩の症状を自己判断し、放置していいと決めつけるのは早計」と指摘する。

肩の痛みは、単なる加齢現象とは限らない。(C) Viktoriya Kuzmenkova-123RF

 「五十肩は正式な病名ではありません。中高年の肩の痛み全般を意味する俗語にすぎず、そこには20以上の病気が含まれています。でも、普通のレントゲン写真には骨しか写らないため、20もの病気のうち、診断できるのはわずか3つ程度。骨以外の病変があっても、レントゲンでは把握できません。骨に異常が見られなければ、『湿布と痛み止めを出しておくので、様子を見ましょう』で以前は終わっていました」(皆川氏)

 レントゲンが見落とす、骨以外の病変の1つが「腱」の異常だ。中でも、肩の腱が切れて痛みが生じたり、腕が上がらなくなったりする「肩腱板断裂」は、症状があっても、まさか腱が断裂しているとは考えがたい病気である(表1)。そのため、「そのうち治るだろう」と軽視して受診しない人が多いのだという。

表1 肩腱板断裂の特徴
  • 高い場所の物を取る、洗髪するなどの動作がつらく、腕が上がらない
  • 腕を上げると肩が痛むが、反対側の手で支えれば上げることができる
  • 腕が上がっても力が入らない
  • 腕を上げると、肩でジョリジョリとこすれるような音がする
  • 夜、痛みで眠れないことがある
  • 自然に治らない(放置すれば部分的な断裂から完全断裂に進行しやすい)

肩腱板断裂は、よくある病気なのになぜ放置される?

 「腱板」とは板状の腱で、肩の関節を安定させる機能を持つ、4つの筋肉(棘上筋、棘下筋、肩甲下筋、小円筋)の総称だ(図1)。加齢によって腱板の強度が低下したり、転倒して衝撃を受けたりするうちに、腱板が切れてしまうことを腱板断裂という。骨折や捻挫のように原因が明らかなケガと違い、本人も気づかないうちに日常生活の中で自然に切れやすい。腱板が切れてしまうと、肩周辺の痛みのほか、腕に力が伝わらない、筋力が低下するなどの症状が生じてくる。

図1 肩関節周辺の筋肉と腱板の仕組み
肩関節の筋肉と上腕骨をつなぐ「腱板」は、加齢や衝撃などにより自然に断裂しやすい。イラスト原図(C)alila-123RF
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 肩腱板断裂は、年をとればとるほど右肩上がりに増加し、図2の通り、50歳以上の4人に1人が起こすという報告もある。肩腱板断裂は、いつか誰にでも起こりうる、ごくありふれた病気なのだ。

 だが、肩腱板断裂で顕著な痛みが出ても、整形外科を受診しない人が多い。その理由は、周りの人から、「加齢現象で痛いだけだから、放っておいても大丈夫。我慢していれば治る」という誤ったアドバイスを受けることが少なくないためだ。それに加えて、肩腱板断裂という病気自体を知らない人が多いことも影響しているという(*1)。日本人特有の、痛みやつらさを我慢することを美徳とする国民性もその背景にあるのではないか、とする見方もある。

図2 肩腱板断裂の発生頻度
皆川氏らが664人(20〜87歳、平均年齢69.5歳)の一般住民を対象に運動器エコーを行った研究の結果。肩腱板断裂は50代以上の4人に1人に発生し、年齢とともに右肩上がりに増えていくことが分かった。(出典:Minagawa H, et al. J Orthop. 2013 Feb 26;10(1):8-12.)
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*1 ジョンソン・エンド・ジョンソンが実施した「腱板断裂 一般生活者向け調査」(2016年)によると、肩の痛みがある人のうち、肩腱板断裂を具体的に知っている人は9.1%、聞いたことがある人は14.8%にとどまった。つまり、8割弱の人が肩腱板断裂の存在を知らないという結果になった。

運動器エコーの進化で、肩腱板断裂は迅速に診断・治療できるように

肩にプローブを当て、モニターで画像を確認しながら診断・治療を進めていく。※写真はイメージです。(C) auremar-123RF

 いったん切れてしまった腱板は、自然に元に戻ることはない。だが、整形外科を受診して適切な治療を受ければ、痛みを軽減したり、肩の動かしやすさや動く範囲(可動域)をある程度回復させることは可能だ。

 整形外科の検査といえば従来はレントゲン検査が主流だったが、近年は医療機器の進歩により大きく様変わりしている。「レントゲン一辺倒の検査は、昭和の頃の話。現在では、骨や腱、筋肉、神経などをきれいに映し出す高解像度の超音波診断装置(以下、運動器エコー)が開発され、肩腱板断裂も運動器エコーで診断するのが当たり前になりつつあります」と皆川氏は語る。

 運動器エコーでは、プローブ(先端部についたセンサー)を肩の周辺に当てて動かしながら、モニター画面に映し出された映像から、腱板の亀裂や断裂の状態を把握することができる。「レントゲンでは骨しか見えませんが、エコーなら腱や筋肉、神経、軟骨なども一瞬で見えるのです。診察室でたった1分程度の検査で、肩腱板断裂かどうかの診断がつく、これが運動器エコーの大きなメリットです」(皆川氏)。

 通常、整形外科の医師は1日20~40人程度の患者を診療するといわれるが、運動器エコーを駆使する皆川氏は、1日平均150人もの患者を診るという。「エコーを使えば診断が早いレントゲン時代と比べると飛躍的な進歩です」(皆川氏)

 運動器エコーの利便性はそれだけではない。肩の痛みが強い場合は、注射で痛みを取り除くが、その際も運動器エコーが威力を発揮する。

 「エコーが発達する前は、注射をしても針先がどこに入っているのか、視覚的に把握できないのが難点でした。でも、エコーを使えば、肩にプローブを当てて画像を見ながら行うことができ、針を神経に刺さないよう『寸止め』することができます。100%狙った場所に正確に薬液を注入することができるのです」(皆川氏)

 このため、肩にプローブを当てて診断がつけば、そのまま、注射で痛みを取り除く治療まで行うことが可能だという。

 注射に用いる薬液はヒアルロン酸製剤やステロイド剤が主流だったが、皆川氏は生理食塩水を用いる方法(ハイドロリリース)を採用している。肩の筋肉(三角筋・棘下筋)の間の筋膜に生理食塩水を注入することで、その付近にある末梢神経をゆるめ、痛みやしびれを緩和することができる。ハイドロ(水)によってリリースする(解き放つ)という言葉の通り、薬剤を一切使わない注射なので、妊娠中・授乳中の女性にも副作用の心配がない。ハイドロリリースを受けた直後から、上がらなかった腕が上がるようになる、首が左右に動くようになるといった即効性があり、「1年以上ぶりにぐっすり眠れました」と笑顔を見せる患者もいるという。

肩腱板断裂の約3割は、注射や理学療法では治らない

 肩腱板断裂の治療には、痛みを軽減する注射に加えて、理学療法のような保存治療がある。理学療法とは、運動や電気療法、マッサージなどによって機能の回復を促すリハビリテーションのこと。理学療法や薬物療法のように、手術を伴わない治療は保存治療とも呼ばれる。

 だが、こうした保存治療で症状が良くなるケースばかりではない。

 「秋田県雄勝郡羽後町で、肩腱板断裂に対して保存治療を行った際の長期的な効果を調べたデータがあります。10年間にわたり保存治療を行った47肩を追跡したところ、9割は痛みがない、あるいは軽い痛みを感じるのみまで回復し、7割は日常生活動作に支障がありませんでした(*2)。ただし、残る3割には日常生活に何らかの支障が残りました。理学療法や注射など、適切な保存治療を受けたにもかかわらず症状の改善が思わしくない場合は、手術が必要となります」(皆川氏)

 その手術(腱板修復術)とは、肩にあけた小さな孔から内視鏡を入れ、肩関節周辺の画像を見ながら、切れた腱板と上腕骨の骨頭をつなぐ手術だ。肩を切開する従来の手術(直視下手術)と違い、約5mmの小さな傷が数カ所残るだけなので、身体的な負担が少なくて済む。

 だが、「最悪の場合は手術でつなげばいい」と安易に考えるのは禁物だ。肩腱板断裂を早く診断できれば、完全に腱板が切れる「完全断裂」を起こす手前の、「不全断裂」の段階で手を打つことができ、そのぶん手術の成績も良好になるからだ。「早期診断のためには、放置しないで早く受診することが欠かせません」と皆川氏は強調する。

 「中高年に多い肩の痛みを、『年をとったから仕方ない』『放っておいても治るだろう』で済ませないでください。現在は運動器エコーを使って迅速に診断・治療ができる時代。その認識が広がれば、もっと多くの患者を肩の痛みから救えるだろうと思います」(皆川氏)

 今回のセミナーを主催したジョンソン・エンド・ジョンソンは、肩腱板断裂のチェックリストを紹介している(図3)。1つでも当てはまれば、早いうちにかかりつけの整形外科に相談してみよう。

*2 木島泰明、皆川洋至ほか、東日本整形災害外科学会雑誌、24(3): 379-379, 2012.

図3 肩の違和感セルフチェック

自分は「四十肩・五十肩」という自覚がある

洗髪や整髪、服を着る際に腕や肩が思うように動かず、不自由を感じることがある

腕を挙げたときに、肩のあたりでジョリジョリとした音がする

水平より上に、腕を挙げることができない

腕は挙がるが痛みを感じる

常に肩の周りが痛い

スポーツや事故などのケガから回復しても、肩の痛みがなくならない

思いあたるきっかけも無いのに、肩に痛みがある

夜間に肩に痛みがあり、眠れないこともある

肩だけでなく、二の腕(上腕)にも痛みがある

※上記項目に一つでも当てはまる場合は、病院で正確な診断と適切な治療を受けることをおすすめします
(ジョンソン・エンド・ジョンソンのウェブサイトより)

皆川洋至(みながわ ひろし)さん
城東整形外科(秋田市)副院長
皆川洋至(みながわ ひろし)さん 1989年自治医科大学卒業。秋田大学医学部附属病院整形外科講師を経て、2018年より現職。日本整形外科学会専門医、医学博士。スポーツ、超音波診療、関節鏡視下手術を専門とし、運動器エコー診療のパイオニアとして知られる。1日150人以上の患者を外来で診察し、海外から超音波診療の技術を見学に訪れる医師も受け入れている。著書に『超音波でわかる運動器疾患』(メジカルビュー社) 。