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“豚のレバ刺し”でE型肝炎が急増!

牛レバーの生食禁止を機に需要がシフト、報告数が2倍以上に

 大西淳子=医学ジャーナリスト

生の豚レバーには食中毒のリスクが。(©Sergiy Kuzmin -123rf)

 2012年7月の牛レバー生食禁止を機に、代替として生食用豚レバーの提供が増え、E型肝炎の報告が急増しています。

 豚肉には顎口虫、旋毛虫、有鉤条虫(ゆうこうじょうちゅう)といった寄生虫がいる可能性があるため、十分加熱して食べることが常識となってきました。ところが、腸管出血性大腸菌による食中毒の恐れがあるとして2012年7月に牛レバーの生食が禁止されて以来、生の豚レバーを代替として求める客と、提供する店舗が増加しました。

 全国の自治体が行っている「食品、添加物等の夏期・年末一斉取締り」実施結果によると、生食用として豚レバーを提供していた店舗は、2012年末には80施設でしたが、2013年夏には190施設に増加していました。

 2015年6月には食品衛生法に基づく「食品、添加物等の規格基準」が改正され、内臓を含む豚肉の生食が禁止されました。生食用として提供した場合には、2年以下の懲役や200万円以下の罰金が科されることになりましたが、禁止後も生食用の需要と供給は続いており、2015年夏の取締りでは、118施設が生食用豚レバーを提供していたとして指導を受けました(*1)。

牛レバーの生食が禁止された2012年からE型肝炎が急増

 豚レバーの提供増加と時期を同じくして増加したのが、E型肝炎の患者です。下記の表は、食品由来の感染ではない患者や国外で感染した患者もわずかに含まれていますが、ほとんどが肉類の生食または加熱不十分な状態での摂取により発症した患者でした。

日本国内で報告されたすべてのE型肝炎患者数
200620072008200920102011201220132014
人数715644566661121127154人
(国立感染症研究所「病原微生物検出情報」より抜粋)

 報告数は実際の患者数よりかなり少ない可能性が高いのですが、注目すべきは、それまでおおよそ一定だった患者数が、牛レバーの生食が禁止された2012年にほぼ倍増し、それ以降も増加傾向にあることです。2011年10月から、E型肝炎ウイルス検査キットが保険でカバーされるようになったことも、報告を増やした可能性はありますが、果たしてそれだけでしょうか。

E型肝炎になったら回復までに4~6週間かかる

 E型肝炎は、E型肝炎ウイルス(HEV)によって引き起こされる急性ウイルス性肝炎です。HEVは豚などの生肉に含まれますが、潜伏期間が15~50日間(平均6週間)と長いため、どの食物が原因だったのかを特定することは容易ではありません。

 発症すると、急な発熱、全身のだるさ、食欲不振、吐き気・嘔吐などが生じ、数日後に黄疸が現れます。ほとんどが4~6週以内に自然治癒しますが、重症になると回復に数カ月を要する場合があります。妊婦、特に妊娠後期の妊婦では重症化しやすく、致死率は最大で20%に達するといわれています。また、妊婦から胎児にも感染します。

 通常は慢性化しませんが、免疫が抑制されている患者(臓器移植後の患者など)は、慢性肝炎になる可能性があります。

 国内でE型肝炎を発症する患者は男性に多く、女性の約3.4倍です。死者数は年0~2人で、すべてが60 歳以上です。

 この病気に対する直接的な治療法はなく、症状を軽くするための治療が行われます。

毎年15万人がHEVに感染?

 肝炎を発症し、HEVに感染していることが明らかになった患者は報告されることになっていますが、実際には報告されない患者も少なくありません。また、HEVに感染しても30%程度は発症しないと言われています。自治医大の高橋雅春氏らが、2002~2007年の調査データに基づいて実際のHEV感染者の数を推定したところ、日本国内では毎年15万人(男性は10万8000人、女性は4万2000人)がHEVに感染していることが示唆されました(*2)。

E型肝炎の主な原因は豚や馬、イノシシ、鹿などの生食

 国内では、HEVに感染している豚、鹿、イノシシ、馬などの肉や内臓を十分に加熱せずに、または意図的に生で摂取して感染、発症する患者がほとんどです。十分に加熱すれば感染は避けられます。

 世界的には、衛生状態が悪く飲用水の管理が悪い地域で、HEVの感染が多く発生しています。生肉以外に、感染した人や動物の便で汚染された水や野菜にも注意が必要です。

*2 Takahashi M, Okamoto H. Features of hepatitis E virus infection in and animals in Japan. Hepatol Res. 2014;44:43-58.

市販の豚レバーの2~3%がHEV陽性か

 豚レバーの何割くらいがHEVに感染しているのでしょうか。東芝病院の研究チームが2014年に報告したデータがあります(*3)。東京都品川区と港区内のスーパーや精肉店あわせて22店舗から生の豚レバーを260個購入、また、22店舗中の1店舗から生の豚大腸(白モツとして料理されます)53個を購入して、HEVの有無を調べたところ、豚レバー7個(2.7%)と、豚大腸1個(1.9%)からHEVが検出されました。

 また、北見市の小林病院の矢崎康幸氏らが2001~2002年に行った調査でも、北海道の食料品店で市販されていた豚生レバー363 個中7個(1.9%)からHEVが検出されています(*4)。

 海外で行われた同様の調査では、市販されている豚レバーからHEVが検出される割合はさらに高いことが明らかになっています。

 なお、清潔な環境で飼育されているSPF豚も、他の農場の豚と同様に、一部は生後1~3か月頃にHEVに感染しています。SPFは「特定病原菌不在」という意味であり、あらゆる病原体を持たないわけではありません

十分な加熱時間は、中心部が75度なら1分

 厚生労働省は、肉の中心部の温度が63度の状態で30分間持続する、またはこれと同等以上の加熱処理をすれば、HEVのみならずサルモネラや腸管出血性大腸菌、カンピロバクター(別記事参照)も感染性を失うとしています(*5)。たとえば肉の中心部の温度が75度であれば、その状態を1分維持すれば安全です。

 塊肉の場合、中心が75度になるまでにかなりの時間がかかります。料理用温度計または肉用温度計といった、太い針のような形のセンサーがついている温度計を差し込んで中心温度を測定し、安全な調理時間を確認すると良いでしょう。

 「肉は新鮮なら生でも安全」という認識は大間違いです。SPF豚にもHEV感染は発生しています。「新鮮であるほど、潜んでいる寄生虫も病原体も元気」と考えて、確実な加熱を心がけてください。

 なお、牛レバー、豚肉の生食が禁じられて以降は、鶏肉の生食によるカンピロバクター感染にも注意が必要となっています。そちらについては、関連記事「鶏肉の生食で毎年500万人の食中毒!?」をご覧ください。

*3 国立感染症研究所. 「都内一般病院で経験した急性肝炎症例および市販食品からの多様なHEV RNAの検出」. IASR 2014;35:8-9.
*4 Yazaki Y, et al. Sporadic acute or fulminant hepatitis E in Hokkaido, Japan, may be food-borne, as suggested by the presence of hepatitis E virus in pig liver as food. J Gen Virol. 2003;84(9):2351-2357.
*5 厚生労働省「豚のお肉や内臓を生食するのは、やめましょう」