最近の患者塾はテーマを決めて、経験者や医療者に話題提供をしてもらったあと、参加者同士で のグループディスカッションや話題提供者との質疑応答をおこなってきました。しかし、今回の患者塾は原点に立ち戻り、とくにテーマは設けず、理事長の山口育子がCOMLに届く電話相談について話したあと、参加者の皆さんに医療に関する悩みや経験を思い思いに話し合っていただきました。(本記事はCOMLの会報誌2014年10月号からの転載です)
約25年の電話相談を通して
COMLでは1990 年の設立当初から活動の柱として電話相談を受けてきました。これまで日本各地から性別、年齢を問わず、届いたご相談は54,000件近くにのぼります。
電話相談件数の推移を見てみると、マスメディアによる報道に私たちの意識がいかに左右されやすいかということを痛感しています。マスメディアによる医療事故についての報道件数の推移とCOMLに届く電話相談の件数の推移が同じ曲線を描くからです。1999 年、横浜で起きた患者取り違え事件を皮切りに大きな医療事故が続き、マスメディアが連日、医療事故に関する報道をしました。するとCOMLにも納得いかない結果が起きたと訴える患者さんやご家族から「医療事故があったに違いない」「訴えたい」というご相談が数多く届きました。医療に関する否定的な報道が減ったいまでは、そのようなご相談が届くことも減ってきました。「世論」とは、じつはマスメディアが作り出しているものではないだろうかと私は感じています。
ただ、この約25年間の相談内容から日本の医療は大きく変化してきたことがわかります。具体的には4つの変化があげられますが、まずインフォームド・コンセントの普及。病名や病状、予後を患者本人に伝えたり、副作用や合併症の事前説明をおこなったりすることが当たり前になりました。またその一方で患者自身の権利意識も高まったように感じます。
つぎにインターネットの普及による情報の氾濫。患者も専門家と同程度の医療情報を手に入れられるようになった半面、たくさんの情報のなかから適切な情報を選ぶ能力が問われること、選択肢が増えすぎて選択しづらくなってきたことなど、難しい側面も生じています。
また、先ほどもお伝えしたように医療事故・ミスの報道によって、医療不信が一時期、高まりました。ただそれは医療側の変化も促しました。医療安全対策への取り組み、コミュニケーションや接遇の見直しが各医療機関でおこなわれるようになったのです。それに問題が起きたときの解決方法も、裁判だけでなく調停やADR(裁判外紛争解決手続)、いわゆる“医療版事故調”(2015年10月スタート)など多様化してきました。
そして家族の役割や価値観もこの25年の間にずいぶん変化してきました。本人の承諾なしに家族に医療情報の説明をすることを拒む人が登場したり、家族以外の人がキーパーソンになったりすることも増えました。心療内科や精神科へのハードルが下がり、精神疾患の相談件数もかつての2倍近くになっています。
根底にあるのはコミュニケーションの問題
COMLに届く電話相談はおおまかに分類すると以下の6つの内容に分けられます。
(1)「受診したほうがいいだろうか?」「通院しているけれど良くならない」といった“症状”にまつわるもの。
(2)「なぜ転院しなければいけないのか?」「紹介状はどうして必要なのか?」という“医療のシステム”に関するもの。
(3)「請求内容がわからない」「請求額が高い」「妥当な請求か知りたい」という医療費について。
(4)副作用や治験・臨床研究など“薬”にまつわるもの。
(5)悲しみやつらさ、不安や腹立ちなど“精神面”でのご相談。
(6)医療事故や医療ミス、(保険が効かない)美容整形や矯正歯科などの“トラブル”。