日経グッデイ

COML患者塾

「訪問看護」を知ろう

【話題提供】錦織 法子さん(訪問看護ステーションゆいか管理者・看護師)

 NPO法人 ささえあい医療人権センターCOML(コムル)

訪問看護という言葉を聞いたことがあっても、実際にどのようなサービスを提供してくれるのかまでは知らない、という方も多いと思います。そこで今回の患者塾では、ご自身も訪問看護師であり、訪問看護ステーションの運営もされている錦織法子さんに訪問看護について話題提供をしていただきました(本記事は COML会報誌2015年7月号からの転載です)。

訪問看護とは

錦織 法子さん(訪問看護ステーションゆいか 管理者・看護師)

 訪問看護は介護保険や医療保険を使って提供されるサービスですが、訪問“介護”と混同されることがよくあります。私たちも利用者や家族と最初に面談するとき、「訪問看護は何をしてくれるの?」とよく聞かれます。

 私は、訪問看護とは「病気や障がいにより、生活しづらい状況にある方の自宅に伺い、療養者や家族の潜在する力を見いだし、医療等の専門性と生活との調和を図るなど、“その人らしい”生活ができるよう支援する看護師によるサービス」だと定義しています。

 具体的に訪問看護で提供できるサービスは、(1)療養介護支援・相談(介護方法についての助言、病気や介護の不安についての相談)、(2)医師の指示による医療処置(医療機器やチューブ類、点滴、薬等の管理)、(3)心身の健康障害の予防(生活状況とあわせて血圧・脈・体温等の身体の状況をみることで、健康障害を予測し予防できるように支援)、(4)療養上のお世話(病状が不安的な時期の入浴・清拭や排せつなどの支援、安楽に生活することについての支援)、(5)床ずれ・皮膚のケア(生活状況とあわせて皮膚の状態をみることで皮膚のトラブルの原因を探り、予防できるように支援)、(6)リハビリテーション(自宅での生活に必要な動作を身につけることで生活機能を取り戻す、認知症や精神疾患の方への生活訓練、嚥下に障害をもつ人への機能訓練)、(7)ターミナルケア(人生の終末期を自宅で安心して過ごせるよう苦痛を緩和し尊厳ある生活ができるように支援)の、大まかに7つに分類することができます。

 ところが、上記のように多岐にわたるサービスを訪問看護で提供できるのに、(2)のような医療処置がなければ訪問看護は必要ないと判断されることがよくあります。実際、訪問看護費は介護保険費用額の2%、国民医療費の0.1%とシェアがとても小さいのです。

 訪問看護制度そのものは1994年に健康保険法によって導入されたのですが、2000年から介護保険でも訪問看護が受けられるようになってから、いくつか問題が生じるようになってきました。介護保険では介護度に応じて受けられるサービスの限度額を設けていますが、訪問看護の介護保険報酬(単価)が比較的高いためにケアマネジャーが計画するケアプランになかなか位置づけにくいという状況です。たとえば、訪問看護師に1回来てもらう単価でヘルパーなら2回来てもらえるとなると、訪問看護師の役割や訪問看護の効果を理解しているケアマネジャーでなければ、ヘルパーを選んでしまうわけです。

経営難で閉鎖する訪問看護ステーションは減ったが、なかなか増えていかないのが現状。(©goodluz /123RF.com)

 こうした現状に対し、訪問看護の事業者団体からも、訪問看護は医療保険のサービスとして介護保険制度の給付限度額の枠の外で利用できるようにしてほしい、と働きかけをおこなってはいます。しかし、訪問看護のシェアが拡大しない背景には、看護側の問題もあります。

 訪問看護は、看護師が所属する病院やクリニック(診療所)に通院する患者さんに提供される医療機関からのものと、医療機関に所属しないフリーの看護師が集まった訪問看護ステーションから提供されるものがあります(ただし、訪問看護ステーションからのサービスを受けるには、かかりつけ医や病院からの訪問看護指示書の交付が必要です)。

 医療機関からの訪問看護は時間が限定され、どちらかというと診療補助的なものが多いですが、訪問看護ステーションからの訪問看護は基本的に24時間連絡がとれる体制で、ひとつのステーションに勤める訪問看護師の数も多くないのでボランティア精神がないとなかなか務まりません。開業するにあたっては、3人以上の看護師確保が絶対条件ですし、給料をきちんと払っていくためにはボランティアとばかりは言っておられず、経営も考え営業もしなければなりません。

 最近はステーション同士が連携をとることも増え、経営難で閉鎖する事業所は減りましたが、なかなか増えていかない現状です。

そもそも看護とは

 訪問看護は在宅“医療”の枠組みのなかで語られることが多いのですが、本来看護の役割とは医療を使って患者さんを支援することではありません。確かに看護師は医師の指示に基づいて医療行為をおこなうこともできますが、療養上の世話(ケア)である「看護」をおこなう専門職なのです。

 ナイチンゲールは著書「看護覚え書」のなかで、病気は生体の回復作用であると述べているのですが、私は「看護は、この『回復作用』を妨げる原因を取り除けるよう、あらゆる環境を整備することで回復を促すことであり、さらに、これを患者自身でできるようになる過程を、さまざまな技術や資源を使って支援することである」と解釈しています。

 たとえば、私たち訪問看護師がご自宅に伺い患者(利用者)さんの床ずれをみれば、ご家族がどういう介護方法をとっているのか、どこに圧がかかっているから生じたのかがわかります。そして患者さんの生活状況を見て、正しい介護方法をお伝えすることで床ずれを治し、予防することができます。もし、皮膚科を受診して一時的に傷が癒えても、生活の場を見ないままでは根本的な解決にはなりません。

 ただ医師の指示を受けて動くだけでなく、患者さんの生活をみて、ご本人やご家族が安全・安心に生活できる環境を一緒に考え整えながら、一方で医療依存度を下げていく、それが訪問看護の役割なのではないかと思います。しかし、すべての訪問看護師や訪問看護ステーションがこのような考えで活動しているわけではないため、なかなか訪問看護の重要性が伝わらず、結果的にシェアが拡大していかないのです。

 私は漢字の“命”は生命そのもの、ひらがなの“いのち” は生活や人生、その人らしさを意味するものとして2つの表記を使いわけているのですが、介護とは“いのち”のバトンリレーの時間だと思っています。「私はしあわせだ」と言って旅立った姿が家族のこころに温かい思い出として染みわたるように記憶されていく、その記憶が残された家族のこころのなかに人生の温かい灯となって生き続ける、それが本来の介護の意味合いではないかと思うのです。

 だから、訪問看護師が家族のもとに届ける医療は、 “介護(バトンリレー)をしやすくするための手段としての医療”でなければなりません。決して単に医療を届けることが役割ではないはずです。

グループディスカッション

Aさん 私は長い間、病院で事務長をしてきました。医師たちは、錦織さんが言うところの患者さんの「命」を助けていますが、患者さんの「いのち」を支えているのは看護師だと思います。しかし、いまは病院の看護師は患者さんの「いのち」を支えきれていないように感じます。

錦織さん 最近は医師と同じく看護師も専門性に特化するようになり、専門看護師や認定看護師が活躍するようになってきました。良い面がある一方で、医療システムのなかで動かざるを得ず、患者さんを全人的にみる本来の看護の機能を発揮できていないとも感じています。ただ、病院の看護師に限らず、訪問看護ステーションにもいろいろな考え方があり、訪問看護師の質もばらつきがあるのが現状です。

Bさん 90歳の祖母は一人暮らしで訪問看護を利用しています。じつは病院で乳がんと診断され、入院して治療を受けるべきだと言われたのですが、本人がそれを望みませんでした。そこで訪問看護を週1回とヘルパーさんによる生活援助を週2回受けることにしたのです。祖母をよく理解してくれているかかりつけの医師がいるおかげもありますが、祖母は自分の好きな畑仕事を続けながら、快適に生活しています。

Cさん 国は在宅医療をすすめていますが、高齢の独居では難しいと思っていました。でも、Bさんのおばあさんは一人暮らしでもサービスを利用して自分らしく生活していらっしゃるのですね。きっとかかりつけの医師と上手に関係を築いてこられたから、ほかのサービスへもうまくつながっていったのでしょうね。羨ましいです。

Dさん 以前、家族が入院していた病院で、床ずれがあるために座ることができず、横になったまま食事をしている患者さんがいました。その姿が目に焼きついています。

錦織さん 床ずれの場所や程度がわからないので、その患者さんがほんとうに座ることができなかったのかどうかはわかりません。しかし、そもそも床ずれは予防するものです。看護師がきちんと環境を整えることができていたならば、床ずれは予防できたと私は思います。

(2015年6月6日開催)

「賢い患者になりましょう」を合言葉に、患者が自立・成熟し、主体的に医療に参加することを目指して1990年に設立。患者と医療者が対立するのではなく、“協働”する医療の実現を目的としている。患者の悩みに対する電話相談、各種セミナー・講座などに積極的に取り組んでいる。