「遺伝子」という名称に惑わされている
ここまで、2社の検査結果を見てきたが、一般向け遺伝子検査そのものが、まだそれほど強固な研究成果の上に成り立っているサービスでもないことが、わかっていただけたのではないだろうか。第2回の「私は85歳までは生きないらしい」でも書いたように、今の遺伝子検査の解析や判定には科学的エビデンス以前の、恣意的な要素が多すぎるのだ。
いわく、同じ疾患でも企業によって解析するSNPが異なるし、SNPの数も異なる。リスクを計算するための根拠となる論文もまちまち(欧米人だけの研究成果をベースにした判定も少なくない)。複数のSNPの研究成果を基にしている場合、それぞれのリスクをどう重みづけして最終的なオッズ比を出しているのかわからない・・・。
たった一つ、二つ、あるいは10個、20個のSNPで病気や体質が決まるわけでもないのに、科学的な裏付けがあるようにみえるのは、「遺伝子」という名称に惑わされているからかもしれない。
生活改善の指導内容は新鮮味ゼロ
ところで、両社とも遺伝子検査の判定に加えて、サイトには当該疾患にかからないための、生活や食事に関する指導も記載されている。また、マイコードには有料の「生活改善プログラム」なるメニューも用意されている。管理栄養士が生活改善のアドバイスをしてくれるのだという。
もっとも、サイトの指導内容やアドバイスはどれもごく当たり前のものばかりで新鮮味はない。酒は飲みすぎるな、たばこはやめろ、野菜や魚を食べろ、塩分は控えろ、運動をしろ、ストレスをため込むな、よく寝ろ・・・。病気は先天的な遺伝要因と、後天的な環境要因などが複雑に絡まり合って発症するので、せめて環境要因から改善しましょう、ということだろうが、これまで耳にたこができるほど聞かされてきたことばかりなのが、なんとも残念。数万円も払って遺伝子をわざわざ調べたのに・・・。この辺り、サービス改善の余地はまだ残されているかもしれない。
10月21日には、化粧品・健康食品のファンケルが、11月から遺伝子検査事業に参入するとの発表を行った。こちらは遺伝子検査で生活習慣病のリスクを解析して、顧客ごとに相応しいサプリを提案するのだという。疾患リスクそのものの根拠もまだ希薄な上に、効果のエビデンスが医療用医薬品ほどには確立されていない健康食品で、果たして“予防医療”が可能なのかしら・・・。
リスク100倍、200倍の病気を知らせて
それはさておき、最後に、私自身が遺伝子検査を受けてみての最大の不満を述べておこう。それは、2倍、3倍程度のリスクではなく、100倍、200倍のリスクがある病気を知らせてほしいということだ。実際に一部の単一遺伝子疾患や、乳癌の遺伝子なども調べてしまっているのだから。もっとも、そうなると、医師が介在せざるを得なくなり、医療の領域に入ってしまうので、こういった簡便なサービスが成り立たなくなってしまうかもしれないが。
しかし、体質や性格はともかく、病気に関しては、遺伝子検査がより医学的、かつ現実的なサービスに“成熟”することを期待したい。実際、遺伝子検査が急速に普及し出していることで、人間ドックなどの医療機関側のサービスも大きな変貌を迫られているという。ヒトのゲノム解析が今より簡便かつ安価にできるようになれば、将来発症する疾患のリスクを医療機関が判定するのが一般的になるかもしれない。もちろん、アンジェリーナのように、“致命的な病気”の発症リスクが高いことがわかった時のフォロー体制だけは、しっかりと確立しておいてほしい。
今回の遺伝子検査、私自身の生活習慣を激変させるまでには至らなかった。ちょっとトレールランニングでも始めようかと思ったくらい。なにせ世界的なマラソンランナーになれたかもしれないのだから。ということで、ちょっくら山に走りに行ってきます。(終わり)
医療ライター