会社勤めを続けている限り、避けては通れない職場の健康診断。自覚症状のない病気を見つけてくれるのは有難いが、仕事に追われるなかで再検査を受けるのはできれば避けたいのが人情。異常値を指摘されたとしても、どこまで生活を見直せばよいのか、今ひとつ釈然としない人も多いだろう。このコラムでは、各種検査への臨み方や結果の見方、検査後の対応など、誤解交じりで語られやすい職場健診についてわかりやすく解説する。
Q 長年飲み過ぎを注意されてきたけど、「AST(GOT)」「ALT(GPT)」の値が下がってきたから、もう心配ない?
A いいえ。酒量を減らしていなければ、肝硬変の疑いもあります。

職場の健康診断の血液検査で調べる「AST(GOT)」と「ALT(GPT)」の値は、肝臓に炎症を起こす肝炎や、肝臓に脂肪が溜まる脂肪肝などを患うと上昇する。この数値が下がったとなれば、質問者のように安心する人は多いだろう。
だが、肝臓専門医で武蔵野赤十字病院消化器科部長の黒崎雅之氏は「健診で肝臓の異常を指摘されても病院を受診せず、飲酒の習慣も改めていないのに、ASTやALTの値が下がってきた場合は、慢性肝炎から肝硬変へと悪化している可能性も考えられます」と注意を促す。
慢性肝炎の状態では値が上がる
ASTとALTは、肝臓の細胞の中にある酵素で、体のエネルギーとなるアミノ酸を作る働きをしている。何らかの異常で肝細胞が大量に壊れると、血液中に漏れ出てきて濃度を示す値が上昇する。そのため、肝臓の異常を発見する目安となるほか、肝臓病の人の病状をみる指標としても用いられている。ASTとALTの基準値の目安は以下の通りだ。
AST(GOT) | 10~40IU/L *特定健診では、31IU/L以上で保健指導、51IU/L以上で受診勧奨 |
ALT(GPT) | 5~45IU/L *特定健診では、31IU/L以上で保健指導、51IU/L以上で受診勧奨 |
だが、ASTとALTの値が低ければ、病状が軽いというわけではない。「肝臓が炎症を起こして、肝細胞が刻々と壊れている慢性肝炎の状態では、ASTやALTの値は上昇します。ただし、慢性肝炎の病状には波があり、炎症が強い時期と弱い時期を繰り返します。そのため、検査をするタイミングによって、基準値内の場合もあれば、基準値を超える場合もあり、一度の検査で数値が下がったからといって、病状が良くなったとは言えません」(黒崎氏)。