日経グッデイ

知ってビックリ! 健診のウソ・ホント

職場健診の判定の基準は、会社によって違う?

 田村知子=フリーランスエディター

 

Q  転職前と転職後の職場健診で、数値はそれほど変わらないのに、判定が「異常なし」から「要注意・経過観察」に変わった項目があった。判定の基準は、会社によって違うの?

A  会社が健診を委託する機関や施設が異なると、判定の基準となる各検査項目の「基準範囲」が異なる場合があります。

 質問者のAさんは、転職前の職場健診では、肝機能検査のALT(GPT)値が42IU/Lで、基準範囲の5~45IU/L以内だったので、判定は「異常なし」だった。ところが、転職後の職場健診では、同検査値が40IU/Lだったものの、基準範囲は10~37IU/Lとなっており、「要注意・経過観察」と判定されたという。数値自体は転職前より低くなったのに、なぜ、このような判定結果になったのだろう。

職場健診の結果報告書に記載されている基準範囲(基準値)の一例
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職場健診の基準範囲(基準値)は委託先の医療機関が決めている

 その理由を、三井記念病院総合健診センターの特任顧問で、日本人間ドック学会副理事長も務める山門實氏はこう説明する。「判定の基準となる各検査項目の『基準範囲』が、事業主から健診業務を委託されている医療機関や健診施設によって異なることがあるためです」。

 「基準範囲」とは、具体的には、健康な人の集団の検査値を基に、そのうちの上位と下位の2.5%ずつを除いた、95%の人が含まれる範囲のこと。WHO(世界保健機関)でも「Reference interval」としてその考え方を認めており、国際的には「『いわゆる健康人(基準個体)』の集団の検査測定値の幅」と定義されている。

 基準範囲が異なるケースが生じるのは、基準範囲の定義と算出方法は統一されているものの、その基となる“健康な人”の選び方が明確になっていないためだ。

 「基準個体が少数であったり、『いわゆる健康な人』の条件が異なっていたりすると、基準範囲も違ってきます。例えば、喫煙者を基準個体から除く施設もあれば、1日20本未満の喫煙者は含める施設もある。その場合、白血球数の基準範囲に1000個/μLの差が見られる場合もあります。ですから本来は、基準個体の選び方も統一し、どの施設でも同一の基準範囲となるのが望ましいのです。さらに言えば、男女差や年齢差も考慮すべきでしょう」(山門氏)。

基準範囲を統一しようという動きも

 健診を行う医療機関によって基準範囲が異なるようだと、健診を受ける立場からは分かりにくい。こうした状況のなかで、日本人間ドック学会と健康保険組合連合会が2014年4月に、健診の基本的な検査項目について新たな基準範囲を示すといった動きもある。これは、人間ドックを受診した約150万人から、飲酒や喫煙の量など、健康状態により厳しい条件を設定して絞り込んだ約1万5000人の基準個体から求めたものだ。

血圧の基準範囲を緩めようという動きもある(©Michal Decker/123RF.com)

 例えば、最大血圧の基準をこれまでの130mmHg未満から147mmHgに緩和し、最小血圧は85mmHg未満から94mmHgへ緩和する内容になっている。一方、日本高血圧学会の高血圧治療ガイドラインによる診断基準は、最大血圧が140mmHg、最小血圧が90mmHg未満となっており、健診の基準範囲とは異なっている。健診の基準範囲とガイドラインによる診断基準は別のものだが、健診の基準範囲に診断基準が用いられる場合も多い。このため、日本高血圧学会や日本医師会、日本医学会からは新たな基準範囲への異議も出ており、基準範囲の統一にはまだ課題が残されている状況だ。