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知ってビックリ! 健診のウソ・ホント

立ちくらみを起こすのは貧血のせい?

 田村知子=フリーランスエディター

会社勤めを続けている限り、避けては通れない職場の健康診断。自覚症状のない病気を見つけてくれるのは有難いが、仕事に追われるなかで再検査を受けるのはできれば避けたいのが人情。異常値を指摘されたとしても、どこまで生活を見直せばよいのか、今ひとつ釈然としない人も多いだろう。このコラムでは、各種検査への臨み方や結果の見方、検査後の対応など、誤解交じりで語られやすい職場健診についてわかりやすく解説する。

Q  立ちくらみを起こすのは貧血のせい?

A  必ずしもそうではなく、脳貧血の場合もある。貧血と脳貧血を混同している人も多いが、両者は別物である。

立ちくらみは貧血のせい? それとも脳貧血?(©arekmalang-123RF)

 立ちくらみの症状が起きると「貧血なのでは?」と考える人が多いが、立ちくらみの多くは脳貧血によるもので、貧血と脳貧血を混同している人は少なくない。

 まず、脳貧血は座っている状態から急に立ち上がったり、長く立ちっ放しだったりすることにより、脳への血液の巡りが一時的に不足することが原因だ。一方で貧血は、鉄分の不足などにより血液中の酸素量が減り、体の姿勢とは関係なく、頭など全身への酸素の供給が減る状態を指す。

 どちらも頭への酸素の供給が減る点は同じだが、「脳貧血と、血液の病気である貧血とは異なるものです」と、血液内科学、臨床検査医学を専門とする順天堂大学医学教育研究室特任教授の奈良信雄氏は話す。

貧血の症状は息切れから

 一方、貧血の症状でありながら、ほかの原因によるものと誤解されやすいのが「息切れ」。貧血になると、真っ先に現れやすい症状だ。

 「貧血によって坂道や階段で息切れがしていても、加齢や運動不足によるものと考えて我慢している人も多く見られます。貧血を放置すると、酸素を全身に運びきれなくなるため、それを補おうとする心臓に負担がかかって、安静時でも心拍数が増えて頻脈になります。それがさらに悪化すると、心不全に至る恐れもあります。貧血でむくみが出たら心不全の兆候ですので、必ず内科を受診し、治療をしてください。貧血で息切れがつらいと感じているような人は、治療をすれば症状はかなり改善します」(奈良氏)

 こうして見ると、「貧血」という病名は比較的よく耳にするにもかかわらず、意外と正確には知られていないことが分かる。「職場健診で貧血を指摘されても、貧血は病気と思わず放置する人も多い」と奈良氏は懸念する。

貧血のチェックは赤血球数でなくヘモグロビン量で

 職場健診の血液検査で貧血をチェックするには、「赤血球数」、赤血球の中にある赤色の色素の密度を示す「ヘモグロビン(血色素)量」、血液中に含まれる赤血球の容積の割合を示す「ヘマトクリット」が用いられる。

 それぞれの基準値の目安は以下の通りで、基準値より低くなると貧血が疑われるが、奈良氏によれば「簡単に説明すると、貧血はヘモグロビン量によって診断するのが一般的」だという。血液中の酸素は、ヘモグロビンの鉄と結合することで全身に運ばれる。このヘモグロビンが減少すると、酸素が全身に行き渡らなくなって貧血になるのだ。なお、ヘモグロビンの赤色は酸化した鉄の色である。

赤血球数、ヘモグロビン、ヘマトクリットの基準値の例
男性女性
赤血球数430万~554万個/μL374万~495万個/μL
ヘモグロビン量13.8~16.9g/dL12.0~15.0g/dL
ヘマトクリット40.8~49.6%34.0~45.3%
※東京医科歯科大学医学部附属病院の基準値を基に作成。血液検査の基準値は検査を受ける医療機関によって異なるため、自身の検査結果は、検査を受けた医療機関の基準値と照らし合わせること。

 一般に、ヘモグロビンが男性で13g/dL未満、女性で12g/dL未満になると、貧血と診断される。「赤血球数は通常、ヘモグロビン量と連動して減ることが多いものの、ヘモグロビン量が低下しても、異常を示さないことがあります。特に、赤血球の容積が小さくなる鉄欠乏性貧血の場合は、赤血球1個1個の酸素を運ぶ力の減少を赤血球の増加により補おうとして、赤血球数が逆に増えていることもあります」(奈良氏)。

貧血は放置せず、原因を探ることが重要

 貧血には様々な種類があるが、大別すると3つのタイプに分けられる。どのタイプかを推測するには、赤血球の平均容積を表す「MCV」、赤血球に含まれるヘモグロビンの濃度を表す「MCHC」の数値を組み合わせて見る。分類の目安、主な貧血の種類は以下の通りだ。

MCV(赤血球の平均容量)=ヘマトクリット÷赤血球数
基準値の目安は、男性で83~103fL、女性で81~100fL

MCHC(赤血球に含まれるヘモグロビンの濃度)=ヘモグロビン÷ヘマトクリット
基準値の目安は、32~37%
貧血には赤血球の大きさにより様々な種類がある
MCVMCHC貧血のタイプ主な貧血
低値(基準値未満)低値(基準値未満)小球性低色素性貧血(赤血球が小さく、ヘモグロビンの濃度も薄い)鉄欠乏性貧血、鉄芽球性貧血、感染・炎症・腫瘍などによる貧血など
正常(基準値内)正常(基準値内)正球性(正色素性)貧血(赤血球の大きさもヘモグロビンの濃度もほぼ正常)溶血性貧血、再生不良性貧血、白血病、腎性貧血、急性出血など
高値(基準値より大きい)正常(基準値より大きい)大球性(正色素性)貧血(赤血球が大きく、ヘモグロビンの濃度は正常)ビタミンB12や葉酸の欠乏による巨赤芽球性貧血など
財団法人中部公衆医学研究所の基準値を基に編集部で作成

 奈良氏によれば「貧血で最も多いのが、小球性低色素性貧血に分類される鉄欠乏性貧血」だという。

 「成人女性の1~2割が鉄欠乏性貧血だといわれています。その主な原因は、月経による出血です。男性や閉経後の女性が鉄欠乏性貧血になった場合は、胃潰瘍や大腸がんなどにより、消化管から慢性的に出血しているケースが考えられます。貧血は何らかの原因があっての結果ですので、貧血と診断されたら放置せずに、その原因を探ることが重要です」(奈良氏)

正常な赤血球と貧血の赤血球の比較
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(1)正常な赤血球。(2)小球性貧血の赤血球。(3)大球性貧血の赤血球。

鉄剤による治療が改善の近道

 鉄欠乏性貧血が疑われた場合は、「精密検査で血清鉄(血液中の鉄分の量)などを測定して、男性で50μg以下、女性で40μg以下であれば、鉄剤による治療などを行います」(奈良氏)。鉄欠乏性貧血が進んでいる場合は、食事やサプリメントでは鉄分を補いきれないので、鉄剤による治療が改善の早道だ。

 ちなみに、鉄分の1日の摂取量の目安は、成人男性で10mg、成人女性で12mg。食べ物に含まれる鉄には、肉や魚など動物性食品に含まれる「ヘム鉄」と、野菜や海藻など植物性食品に含まれる「非ヘム鉄」があり、「ヘム鉄のほうが体への吸収率が高い」(奈良氏)。

 ヘム鉄を多く含むのは肉の赤身やレバー、カツオやマグロといった赤身の魚など。非ヘム鉄はほうれん草や小松菜、ひじきなどの海藻や大豆などに多く含まれており、「ビタミンCやたんぱく質と一緒に摂取することで、吸収率が高まる」(奈良氏)という。日常的な貧血予防には、これらの食品をバランス良くとるよう心がけるといいだろう。

奈良信雄(なら のぶお)さん
順天堂大学 医学教育研究室 特任教授
奈良信雄(なら のぶお)さん 1950年高松市生まれ。東京医科歯科大学医学部卒。同大学第一内科、放射線医学総合研究所、カナダのトロント大学オンタリオ癌研究所、東京医科歯科大学医学部教授を経て、1999年より同大学大学院教授。2015年より現職。専門は血液内科学、臨床検査医学。一般向けの健康に関する啓蒙活動に積極的で、『病院の検査が分かる本』(講談社)、『ホームドクターを探せ』(宝島社新書)など多数の著書がある。