会社勤めを続けている限り、避けては通れない職場の健康診断。自覚症状のない病気を見つけてくれるのは有難いが、仕事に追われるなかで再検査を受けるのはできれば避けたいのが人情。異常値を指摘されたとしても、どこまで生活を見直せばよいのか、今ひとつ釈然としない人も多いだろう。このコラムでは、各種検査への臨み方や結果の見方、検査後の対応など、誤解交じりで語られやすい職場健診についてわかりやすく解説する。
Q 5年前に禁煙したので、タバコによる健康悪化は心配無用?
A 10年前に禁煙していても、COPDを発症することがある。医療機関で診察を受け、肺機能検査を定期的に受けておくといい。
喫煙はがんをはじめ、人の健康に様々な悪影響を及ぼすことが知られている。咳や痰、息切れといった症状が慢性的に続く「COPD(Chronic Obstructive Pulmonary Disease:慢性閉塞性肺疾患)」もその一つだ。COPDは“たばこ病”と呼ばれることもあるように、一定期間の喫煙歴がある40歳以上の人に発症しやすい(COPDの詳細については前回の記事「ヘビースモーカーだけど、職場健診の胸部エックス線検査で問題なければ大丈夫?」を参照)。
COPDの最も有効な予防法や治療法は「たばこを吸わないこと」といえるので、質問者のように5年前に禁煙ができたことは素晴らしい。だが、「タバコを吸わなくなった10年後にCOPDを発症するケースもあるので、油断はできない」とCOPDを専門とする日本医科大学呼吸ケアクリニック所長の木田厚瑞氏は指摘する。
その兆候を見逃さないためには、職場健診や人間ドックの肺機能検査を定期的に受けて、経年変化を把握しておくことが大切だ。一般的な肺機能検査は、電子スパイロメーターという検査機器につながれたマウスピースを口にくわえて、指示に従って息を吸ったり吐いたりすることで肺に出入りする空気の量や速度を調べるもので、「スパイロ検査」(前回記事を参照)と呼ばれる。「いくつかある検査項目の中でも、特に吐く息の初速といえる『1秒量』に注目してほしい」と木田氏は話す。
COPDの診断に用いられるスパイロ検査の項目 |
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■%肺活量(%VC) 年齢、性別、身長などから得られた予測肺活量に対するその人の実測肺活量の比率 |
■努力性肺活量(FVC) 息を深く吸い込み、できるだけ速く一気に吐ききったときの息の量 |
■1秒量( FEV1.0) 息を深く吸い込み、できるだけ速く吐いたときの、最初の1秒間に吐き出した息の量 |
■1秒率(FEV1.0%) 努力性肺活量に対する1秒量の比率 |
スパイロ検査では「%肺活量(%VC)」が80%以上かつ、「1秒率(FEV1.0%)」が70%未満のときにCOPDと診断される。しかし、「1秒率が正常域でも、以前に測ったときの数値との変化の度合いによっては安心できない。『1秒量( FEV1.0)』が前年と比べて『50mL以上低下』している場合は、肺機能が急速に悪化しているサインと考えられます」(木田氏)。
さらに、前回紹介した簡易問診票「CAT(COPDアセスメントテスト)」でのセルフチェックで、スコアが10以上あれば、やはり要注意といえる。
「スパイロ検査の判定や数値に異常がなかったとしても、1秒量が急速に低下したり、CATのスコアが10以上あったりすれば、呼吸器内科を受診するといいでしょう。特に、CATは自分で簡単にチェックができ、スパイロ検査で正常だった人でもハイリスクの可能性を知ることができるので、ぜひ活用してほしいと思います」(木田氏)