会社勤めを続けている限り、避けては通れない職場の健康診断。自覚症状のない病気を見つけてくれるのは有難いが、仕事に追われるなかで再検査を受けるのはできれば避けたいのが人情。異常値を指摘されたとしても、どこまで生活を見直せばよいのか、今ひとつ釈然としない人も多いだろう。このコラムでは、各種検査への臨み方や結果の見方、検査後の対応など、誤解交じりで語られやすい職場健診についてわかりやすく解説する。
Q 職場健診の胸部エックス線検査で、「肺がんが疑われる影があります」と伝えられる可能性はどのくらいある?
A その可能性はない。仮にがんが疑われたとしても、「異常陰影あり、要精密検査」と伝えられるのが一般的。その後の精密検査で、がんかどうかを判別する。
職場の健康診断の胸部エックス線検査は、主に肺の病気、特に肺がんの早期発見を目的に実施される。その検査で影が見つかれば肺がんの可能性について調べることになる。ただし、呼吸器疾患を専門とする国立病院機構東京病院院長の大田健氏によれば、「仮にがんが疑われたとしても『腫瘍(肺がん)らしい影があります』と告げられることはまずありません。多くの場合は『異常陰影あり、要精密検査』と伝えられます』という。
がんの診断にはステップが必要
がんの確定診断に至るまでには、通常、次のようなステップを踏む。まず、職場健診では前回のコラムで紹介したように、造影剤を用いない単純エックス線検査が行われる。多くの場合は「間接撮影」といって、蛍光板に投影されたエックス線照射の陰影をロールフィルムで撮影する。短時間で簡単に撮影でき、集団での撮影処理に適しているためだ。
ただし、間接撮影では正面の1方向からしか撮らないのが一般的で、心臓の裏側などでは影が重なって見えにくいケースがあるので、「要精密検査」となった場合は「直接撮影」が行われる。これはフィルムにエックス線照射の陰影を直接投影し、実物大で写すもので、間接撮影よりも精度の高い画像が得られる。また、間接撮影では正面から撮るのが一般的だが、直接撮影では体の横からの「側面像」や、必要に応じて斜めからの「斜位」などの撮影を行うこともある。角度を変えて撮ることで、正面像では重なって見える部分も立体的に把握できる。
エックス線検査の結果、さらに詳しい検査が必要と考えられるときは、コンピュータ断層撮影装置(CT)検査が行われる。CT検査では体を輪切りにしたような断面像が撮影されるため、エックス線検査ではぼんやりとした影のように見えたり、影が重なって見えにくかったりする部分がより分かりやすくなる。また、病変の大きさや形なども確認できる。ただし、がんと診断されるのは、「最終的に組織の一部を採取し、顕微鏡で詳しく調べる『生検』を行い、がん細胞の有無や種類を確定してからになります」(大田氏)。
この記事の概要
