冒頭では悪玉/善玉コレステロールという呼び方をしたが、「コレステロールに悪いもの、良いものがあるわけではありません」と話すのは、生活習慣病の予防・治療を専門とする岡部クリニック院長の岡部正氏だ。
「LDLコレステロールは、コレステロールを肝臓から末梢の細胞に運ぶ働きをしています。LDLコレステロールが増えすぎると、血管壁にコレステロールが蓄積されてプラーク(脂肪の塊)となり、動脈硬化を引き起こすため、『悪玉』と呼ばれています。一方でHDLコレステロールは、末梢で余ったコレステロールを肝臓に回収する働きをするもので、動脈硬化を防ぐことから『善玉』と呼ばれています。コレステロール自体は同じものですが、往きと帰りで違う乗り物で運ばれており、乗り物の名称が異なると考えれば分かりやすいかもしれません」
警戒すべきは、コレステロールそのものより「飽和脂肪酸」や「トランス脂肪酸」
悪玉のLDLコレステロール値の上昇には、食べ物が大きく関係している。一般には、卵や魚卵などコレステロールを多く含む食品の取り過ぎが、LDLコレステロール値を高めると思われることがあるが、「血液中のコレステロールのうち、食品の摂取によって腸から吸収されるコレステロールは2~3割程度で、7~8割のコレステロールは肝臓で合成されています。そのため、コレステロールそのものを含んでいる食べ物よりも、肝臓でコレステロールを合成する材料となる、飽和脂肪酸やトランス脂肪酸を含む食べ物の取り過ぎに、より注意が必要です」(岡部氏)
実際、米国ではこれまで、食生活の指針とするガイドラインでコレステロールを多く含む食品の摂取量の上限を示していたが、2015年版では、「食事から摂取するコレステロールと血中コレステロールの間に明確な関連を示す証拠がない」との理由からこれを撤廃した。一方で、飽和脂肪酸の摂取量については、より厳しい制限が求められている。
では、飽和脂肪酸やトランス脂肪酸を含む食べ物には、どんなものがあるのだろう。
肉の脂身、菓子パンなどに要注意
「飽和脂肪酸は脂身の多い肉やバター、ラードなどの動物性脂肪に多く含まれています。肉を食べるなら、赤身の肉を選ぶといいでしょう。トランス脂肪酸は人工の脂肪で、マーガリンやショートニングに含まれています。米国では、トランス脂肪酸の使用が厳しく規制されていますが、日本では規制も表示義務もありません。そのため、マーガリンやショートニングを使って作る菓子パン、ケーキ、スナック菓子などにはトランス脂肪酸が含まれていると考え、控えたほうが無難です」(岡部氏)
一方、青魚に含まれるDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)といった不飽和脂肪酸には、LDLコレステロール値を下げる作用があるという。
「LDLコレステロール値には、お酒の飲み過ぎは関係ないのか」と安心してはいけない。アルコールや、ブドウ糖や果糖となって吸収される炭水化物は、肝臓における中性脂肪の合成を促進するため、取り過ぎは中性脂肪値を高める原因になる(中性脂肪については、次回に詳しく説明する)。
岡部氏によれば、遺伝的な体質によって、コレステロールや中性脂肪を過剰に作りやすい人と、作りにくい人がいるという。すでにLDLコレステロール値が高い人は、過剰に作りやすい体質と考えて、食生活の改善を心がけたい。
岡部クリニック院長

