会社勤めを続けている限り、避けては通れない職場の健康診断。自覚症状のない病気を見つけてくれるのは有難いが、仕事に追われるなかで再検査を受けるのはできれば避けたいのが人情。異常値を指摘されたとしても、どこまで生活を見直せばよいのか、今ひとつ釈然としない人も多いだろう。このコラムでは、各種検査への臨み方や結果の見方、検査後の対応など、誤解交じりで語られやすい職場健診についてわかりやすく解説する。
Q 便潜血反応検査が陽性で、大腸の精密検査を受けることになったが、内視鏡検査は痛そうだから、エックス線検査でもいい?
A 大腸内視鏡検査がおすすめ。結局、注腸造影検査(下部消化管エックス線検査)で異常があった場合は、改めて大腸内視鏡検査を受けることになる。

職場の健康診断や大腸がん検診などで、便潜血反応検査が陽性と判定された場合、消化器の専門医を受診して、精密検査を受けることが大切だ。
消化器関連の疾患を専門とする慶應義塾大学医学部の鈴木秀和教授によれば、「大腸の精密検査には、注腸造影検査(下部消化管エックス線検査)と大腸内視鏡検査がありますが、最近は内視鏡検査が主流になってきています」と話す。
注腸造影検査で何らかの病変が見つかった場合には、結局は大腸内視鏡検査を受けることになる。とはいえ、検査方法にはそれぞれ特長があるので、それを踏まえたうえで医師に相談するといいだろう。
意外とつらくない内視鏡検査
注腸造影検査は、胃のエックス線検査(上部消化管エックス線検査)と同様に、造影剤のバリウムを用いて、エックス線撮影を行う検査だ。通常は前日に下剤を飲み、腸の中に何もない状態にしておく。検査当日は鮮明な画像を撮影するため、検査前に腸の動きを抑える薬(抗コリン薬など)を注射するのが一般的だ。
検査では肛門からバリウムを注入したあと、さらに空気を注入して大腸を膨らませる。その後、うつ伏せや仰向けなど体位を変えてバリウムを大腸の壁全体に行き渡らせながら、エックス線撮影を行う。検査後は、バリウムを排出するために再び下剤を飲むが、バリウムに下剤が含まれている場合もある。
一方で大腸内視鏡検査は、内視鏡を肛門から大腸に挿入して、大腸内の粘膜の表面を直接観察する検査だ。通常は検査の前日と当日に、下剤として大腸内を洗い流すための薬剤(経口洗腸液:腸から吸収されない電解質液など)を飲む。
その後、内視鏡を挿入するための処置を行うが、内容は施設によって異なる。腸の動きを抑える薬剤や鎮静剤を用いることもあれば、内視鏡を挿入する際の苦痛を和らげるために、肛門部の局所麻酔などを使う施設もある。「麻酔は用いない場合もあります。とくに、高齢者では呼吸機能が低下することがあるので、十分な注意が必要です」(鈴木教授)。
内視鏡を挿入する際の痛みを心配する人は多いが、実際には「挿入時の痛みというよりも、内視鏡を挿入する際に空気を送りこんで大腸を膨らませるため、その膨満感を苦痛に感じる人の方が多いようです。また、内視鏡検査では検査当日に下剤を2リットル程度飲む必要があるため、それがつらいと感じる人もいます。ただ、体位を変えながら行う注腸造影検査に比べて、内視鏡検査は、基本的には横になっていればいいので、受ける側の負担は少ないとも考えられます」(鈴木教授)。