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知ってビックリ! 健診のウソ・ホント

健診で高血圧でも、自宅で正常値なら心配はいらない?

 田村知子=フリーランスエディター

会社勤めを続けている限り、避けては通れない職場の健康診断。自覚症状のない病気を見つけてくれるのは有難いが、仕事に追われるなかで再検査を受けるのはできれば避けたいのが人情。異常値を指摘されたとしても、どこまで生活を見直せばよいのか、今ひとつ釈然としない人も多いだろう。このコラムでは、各種検査への臨み方や結果の見方、検査後の対応など、誤解交じりで語られやすい職場健診についてわかりやすく解説する。

Q  職場健診では高血圧を指摘されたが、自宅では正常値。特に心配はいらない?

A  いいえ。健診の測定では血圧が高めになりがちだが、健診時の判定に従うのが基本。時間帯による変動も考慮に入れる必要がある。

健診では緊張やストレスなどによって血圧が上がりやすい。(©Andriy Popov/123RF.com)

 職場健診や医療機関で血圧を測定すると、普段より血圧が高くなる傾向がある。これは緊張やストレスなどによって血圧が上がるためで、「白衣高血圧」と呼ばれている。この対策として、健診時の血圧測定は2回行い、低値の方を採用する場合が多い。

 慶應義塾大学医学部 総合診療科講師の平橋淳一氏は「1回目の測定では高い数値が出ることが多く、2回目の測定値とは異なることがほとんどです。できれば3回測定して、間を取るのが理想」と話す。

 健診で高血圧であっても、普段の血圧が安定していれば大きな問題がない場合も多い。だが、白衣高血圧は将来、高血圧と糖尿病に移行するリスクが高いことが知られている。判定にはあくまで健診時の測定値が使われるので、「要受診」などの判定が出たら、その指示に従うのが基本だ。家庭では低いのに、健診でいつも血圧が高めになるという人は、家庭での測定の記録を受診時に持参して、医師に考慮してもらうといいだろう。

高血圧の基準は、家庭と職場健診では異なる

 その際、注意したいのは、家庭で測る血圧と健診や医療機関で測る血圧では「高血圧」の基準が異なる点だ。一般に、家庭で測る「家庭血圧」は、医療機関で測る「診察室血圧」よりも低めになるため、高血圧の目安も低く設定されている。

 診察室血圧では収縮期血圧(最大血圧)が130 mmHg未満かつ拡張期血圧(最小血圧)が85 mmHg未満であれば「正常血圧」、収縮期血圧が140 mmHg以上または拡張期血圧が90 mmHg以上であれば「高血圧」とされるが(前回記事「血圧は低いぶんには心配ない? 」を参照)、家庭血圧では収縮期血圧125 mmHg未満かつ拡張期血圧80 mmHg未満が「正常血圧」、収縮期血圧135 mmHg以上または拡張期血圧85 mmHg以上が「高血圧」とされている。家庭血圧が135/85 mmHgに近づいた場合は、医療機関を受診することが推奨されている。

健診で見逃される「仮面高血圧」にも注意

 一方、近年では、健診時の測定では正常値でも、それ以外の場所では高血圧になっている人が見逃されているケースも問題視されている。こうした場合は「仮面高血圧」と呼ばれる。仮面高血圧には大きく3種類ある。「早朝高血圧」、「昼間(ストレス下)高血圧」、「夜間高血圧」である。

高血圧の診断基準
「高血圧治療ガイドライン2014」(発行:日本高血圧学会)を基に編集部で作成
[画像のクリックで拡大表示]
※仮面高血圧は、早朝高血圧(早朝の平均血圧が135/85 mmHg以上)、昼間(ストレス下)高血圧(昼間の平均血圧が135/85 mmHg以上)、夜間高血圧(夜間の平均血圧が120/70 mmHg以上)に分類される。

 仮面高血圧の中でも多く見られるのが、朝方の起床時に血圧が高くなる「早朝高血圧」だ。診察室血圧が収縮期血圧140 mmHg未満かつ拡張期血圧90 mmHg未満で、早朝に測定した家庭血圧の平均値が収縮期血圧135 mmHg以上または拡張期血圧85 mmHg以上の場合に、早朝高血圧と診断される。

 一般的に人間の血圧は、日中活動している時間帯が高く、夕方から夜にかけて下がっていく。早朝は目覚めに向けて血圧が上がっていくが、その上昇が急激だと早朝高血圧になりやすい。早朝高血圧は、脳や心臓、腎臓といったすべての心血管病につながる可能性があり、朝方に脳卒中や心筋梗塞などの虚血性心疾患が起こりやすい要因の1つと考えられている。

 「早朝高血圧の原因は生活習慣など様々ですが、最近多く見られるケースは、睡眠時無呼吸症候群が要因となっているものです。寝ている間にいびきをかき続け、突然呼吸が止まる「睡眠時無呼吸」が頻発することによって低酸素状態となり、それが交感神経を活発にし、酸化ストレスが増えることで高血圧を引き起こします。ですので、早朝高血圧が疑われる人は、就寝時にいびきや無呼吸の症状があるかどうかを確認することも大切です。睡眠時無呼吸症候群の治療が、早朝高血圧の改善と心血管病のリスク回避にもつながります」(平橋氏)。

朝と夜で20 mmHg以上違う場合も

 夜間の血圧は昼間の10~20%低下するのが正常な血圧変動リズムである。しかし、夜間の血圧低下が少ない人や、逆に上昇する人は、脳と心臓、腎臓すべての臓器の障害と心血管病を患うリスクが高く、睡眠時間が短いとさらにそのリスクが増加する。このような点からも、良い睡眠を十分取ることはとても大切と言える。

 前述のように血圧は1日の中でも変動していて、「朝と夜で20 mmHg以上違う場合もあります」と平橋氏は話す。「ですから、健診時や家庭でのワンポイントの測定値だけをとって、自分の血圧値と考えるのは避けるべきでしょう」。血圧値の異常を指摘されたことがある人は、少なくとも朝と夜の2回は測って、自身の傾向を把握することが大切だ。

平橋淳一(ひらはし じゅんいち)さん
慶應義塾大学医学部 総合診療科 血液浄化・透析センター 講師
平橋淳一(ひらはし じゅんいち)さん 1993年慶應義塾大学医学部を卒業。総合診療科では、健康診断でいくつかの臓器にわたる異常を指摘され、受診する診療科の選択に困るケースなどで、臓器の枠にとらわれない幅広い医療を提供している。専門は、腎臓病学、自己免疫性血管炎、透析療法。日本内科学会認定内科医。総合内科専門医。日本腎臓学会腎臓専門医。日本透析医学会専門医。