会社勤めを続けている限り、避けては通れない職場の健康診断。自覚症状のない病気を見つけてくれるのは有難いが、仕事に追われるなかで再検査を受けるのはできれば避けたいのが人情。異常値を指摘されたとしても、どこまで生活を見直せばよいのか、今ひとつ釈然としない人も多いだろう。このコラムでは、各種検査への臨み方や結果の見方、検査後の対応など、誤解交じりで語られやすい職場健診についてわかりやすく解説する。
Q 胃のエックス線検査で「要精密検査」の判定だったが、いつも指摘を受ける慢性胃炎の疑いなので、様子を見ても大丈夫?
A いいえ。慢性胃炎の放置は胃がんを発症する可能性もあります。判定に従って、内視鏡検査やピロリ菌感染検査を受けましょう。
健康診断の胃エックス線検査(上部消化管エックス線造影検査)で、慢性胃炎や胃ポリープまたはその疑いを指摘される人は少なくない。
一見問題なさそうな病状にも落とし穴が

慢性胃炎とは、胃の粘膜が慢性的に炎症を起こしている状態をいう。炎症が長期間続くと、胃酸を分泌する胃腺が縮小し「萎縮性胃炎」へと進んでいく。この萎縮性胃炎は、胃がんの発生リスクが高いことが指摘されている。
一方の胃ポリープは、胃の粘膜の一部が盛り上がったもの。健康診断の胃エックス線検査では、胃の上部に小さなポリープが複数個見られる「胃底腺ポリープ」を指摘されるケースが多い。胃底腺ポリープはがん化しないといわれているが、そのほかのポリープではがんになる可能性のあるものもある。
そのほか、健康診断の胃エックス線検査で見つかりやすいものには「胃潰瘍瘢痕(はんこん)」がある。これは胃潰瘍が治ったあとの傷あとで、潰瘍の再発がなけれは瘢痕自体に問題はないが、瘢痕に似た形態のがんもある。
消化器関連の疾患を専門とする慶應義塾大学医学部の鈴木秀和教授は、「これらの指摘を受けていても、そのほとんどが無症状のため、精密検査を受けずに放置している人が少なくない」と話す。だが、質問者が指摘されている慢性胃炎は「放置すればじわじわと萎縮性胃炎が広がり、胃がんになりやすくなる恐れがある」(鈴木教授)。