ピーコこと杉浦克昭さん。ファッション評論家、タレント、シャンソン歌手といくつもの「顔」を持ち、メディアで活躍するピーコさんは1989年、眼のがんにかかりました。当時44歳。まさに働き盛りのピーコさんの左目を襲ったのは、30万人にひとりという悪性腫瘍。ショービジネスの世界で最前線に立っていたピーコさんは、決断を迫られます。仕事とがん治療とをどう両立させるのか。自分の未来に「がん」が立ちふさがったとき、何が救いとなるのか。働き盛りのみなさんにこそ、読んでほしい。がんと向き合い、がんと共に生き、働き、がんと決別したピーコさんの言葉です。
がんになる前、自分をよく見せたいと思っていたピーコさん。がんを経験したあとには、そんな自己顕示欲が消え、素直に行動できるようになったといいます。
がんになる前は、いま考えると、ずいぶん格好をつけていましたね。
「いいひとに思われたい」
「頭のいいひとに見られたい」
という欲がまずありました。
でも、がんを体験したあとはそんな自己顕示欲が消えてしまった。実に素直に行動できるようになりました。
いろいろな欲望に煩わされなくなったというのは、とてもすっきりして気持ちがいい。気分が楽になります。自分の寿命はいつかくる。それまでに、ほかのひとのために何ができるんだろう。そんなことを自分が考えるようになるとは思わなかったけれど、がんで死の淵をのぞいた経験が、わたしを変えたのは事実ですね。
そんな自分の変化を、わたしは「よかった」と思っています。
もちろん、自分の本質が変わったわけじゃない。おすぎもそうなんだけど、もともといやなことは一晩寝ると忘れる体質なんです。がんにかかったときの切り替えの速さもわれながらびっくりしちゃったくらいだから。これは、わたしの持って生まれた性格だから、みんなもくよくよしないほうがいいわよ、なんて無責任なことはもちろん言いません。でも、いざなってしまったら、むしろ後ろをみるよりも、前に向かったほうがやっぱりいいと思う。過去には戻れないのだから。
一時は控えていたけれど、今はお酒だって普通に呑みます。先日も、「ピーコさんのエネルギーの素はなんですか」と聞かれたから、「おいしいお酒に決まってるじゃない」と答えました。
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