「がんになった=仕事も、人生ももうおしまい」という時代は終わりました。いま、日本では、働きながら治療をするサポートシステムが整えられようとしています。がんと共に生き、働く時代。それを家族、医療のプロ、職場、地域社会など周囲の人みんなが支える時代がやってくるのです。
そんな時代にがんになったら、本人は、家族は、周囲は、どう考えどう行動すればいいのでしょうか。まず、がん治療と研究に長年携わってきた立場から、現在おすすめできる具体的な対処法を説明します。
また、がんになっても生きやすい社会にしていくためには、これから何が必要なのでしょうか。いま、私たちが取り組んでいることを紹介しましょう。
がんを、闘病を、上手に「マネジメント」していきましょう。
がんと共に生き、働くためには、常に患者さん本人の「心構え= マインドセット」を念頭に置きながら、「実際に何をするか=行動のマネジメント」が大切です。心構えと行動がセットとなって成果を出す。何らかの形で仕事をした経験がある方なら、すぐにお気づきでしょう。そう、これは普段の仕事と同じです。
では、実際にどんな行動からスタートすればいいのでしょうか?
患者さんの「心構え= マインドセット」が、がんに向き合えるようになった段階で、まず必要なのは、自分の病気や置かれている状況をしっかり理解すること。つまり「正確な情報の収集」です。正しい対処のためには、正しい情報が不可欠です。自分の病気や体調、治療法などを、病院と相談しながら、できる範囲で記録していきましょう。
がんと上手に付き合っていく「行動のマネジメント」の第一歩、それは「情報の収集と整理」です。それができると、曖昧な不安が消えて、具体的に次に何をすべきかが、はっきり見えてきます。
「情報の収集」と同時に欠かせないのが、患者さんご本人が家族、職場、医療者を巻き込んで「対策チーム」をつくることです。逆にいえば、まわりの方は、医師や看護師などの医療スタッフと共に、積極的に患者さんを支えるチームの一員になってください。
「がんと共に生きるために、治療をする」というプロジェクト達成のためにチームをつくる。これも、ビジネスの現場と同じだと思います。がんの治療をしながら、職場に復帰し、生活をするには、治療以外に、食事、運動、睡眠時間、仕事の割り振り、ワークライフバランス、情報収集、さらにはお金の管理など、やることがたくさんでてきます。がんにかかった患者さんひとりでできることではありません。だから、周囲がチームになる。これが絶対に欠かせないのです。
行動を起こしても、がんにかかった患者さん本人が、再び落ち込んだりすることがあります。そんなとき、患者さんを支え、「がんと共に生きる」道筋をつくるのは、具体的な行動をマネジメントすること。そして、そのマネジメントをサポートする、家族や職場や医療者による「チーム」なのです。
次は、身近で大切な家族ががんになったときに、すべきことについてお話します。
国立がん研究センターがん対策情報センター編
『わたしも、がんでした。 がんと共に生きるための処方箋』 (日経BP社、2013年9月発行)より転載
国立がん研究センター理事長

『わたしも、がんでした。 がんと共に生きるための処方箋』
(国立がん研究センターがん対策情報センター編、日経BP社)好評販売中
医学の進歩によって、「がん=迫りくる死」ではなくなっています。実はかなり多くの人が、がんと共に社会で暮らしています。しかし、がんと共に生きることや働くことは、日本社会ではまだまだ普通のことと思われていません。がんと共に生きるとは、働くとは実際にはどういうことなのか。それを知っていただくために、本書ではがんに関わる当事者の方々に語っていただきました。──「はじめに」より
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