「がんになった=仕事も、人生ももうおしまい」という時代は終わりました。いま、日本では、働きながら治療をするサポートシステムが整えられようとしています。がんと共に生き、働く時代。それを家族、医療のプロ、職場、地域社会など周囲の人みんなが支える時代がやってくるのです。
そんな時代にがんになったら、本人は、家族は、周囲は、どう考えどう行動すればいいのでしょうか。まず、がん治療と研究に長年携わってきた立場から、現在おすすめできる具体的な対処法を説明します。
また、がんになっても生きやすい社会にしていくためには、これから何が必要なのでしょうか。いま、私たちが取り組んでいることを紹介しましょう。
「がん=ずっと入院」はいまや昔。がんと共に生き、働く時代です
つい最近まで、日本では、がんになったら入院して闘病に専念するのが当たり前で、仕事を続けるなどもってのほかというイメージがありました。
けれども、いまは医療技術も、がん患者をサポートする仕組みも、そして社会通念も大きく変わりつつあります。「がんになったらずっと入院」という時代は終わりました。患者さんご本人の意思を尊重しながら、がんと共に生きる、がんと共に働く時代になったのです。
医療面での変化を見てみましょう。
早期のがんであれば完全な治癒が可能なケースが多くなっています。また、例え再発しても、適切な治療を続けていくことで、まさに「がんと共に生きる」ことは珍しくありません。がんにかかったら、長期の入院治療を強いられ、仕事は辞めなければならず、自宅から引き離され、一般社会から隔離される、というのはいまや昔の話です。もちろん、初期入院は多くの場合必要となりますが、その期間はどんどん短くなっていて、外来治療を行いながら、仕事や家庭生活を続けていく人が増えています。
「がんと共に生きる、働く」ことが可能になったのは、医療の進歩のためだけではありません。社会通念も大きく変わりつつあります。
がんは、患者当人だけが向き合う病ではありません。
長寿国日本において、がんは数少ない大病のひとつです。だからこそ、家族が、勤め先の企業が、地域が、そしてもちろん医療機関が一体となって、がんと共に働ける、生きがいをもって暮らせるよう、患者さんをサポートする。こうした方向に社会全体が動き、サポートのための有形無形のシステムやサービスも充実しつつあるのです。
21世紀の「がん治療」は、患者さんと病院の間だけで完結するものではありません。家族、地域、企業、自治体をも巻き込み、みんなでつくっていくものです。がんにかかっていても、無理をしない範囲で、職場で働き、大切な人たちと豊かな生活を送り、治療を続けていく。それが、これからのがん治療のスタンダードです。
次回は、自分ががんになったときの向き合い方についてお話します。
国立がん研究センターがん対策情報センター編
『わたしも、がんでした。 がんと共に生きるための処方箋』 (日経BP社、2013年9月発行)より転載
国立がん研究センター理事長

『わたしも、がんでした。 がんと共に生きるための処方箋』
(国立がん研究センターがん対策情報センター編、日経BP社)好評販売中
医学の進歩によって、「がん=迫りくる死」ではなくなっています。実はかなり多くの人が、がんと共に社会で暮らしています。しかし、がんと共に生きることや働くことは、日本社会ではまだまだ普通のことと思われていません。がんと共に生きるとは、働くとは実際にはどういうことなのか。それを知っていただくために、本書ではがんに関わる当事者の方々に語っていただきました。──「はじめに」より
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